「リアリティを持って話せること」それが強みであり、武器になる【メンターVol.1 細野真悟さん】
2017年夏、NTT西日本から、排泄予測デバイス「DFree」を開発・販売しているベンチャー企業・トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社に1年3ヶ月のレンタル移籍をした新田一樹さん。
そんな新田さんの担当メンターとして、伴走をされていたのが細野真悟さん。時には共に悩み、ある時には背中を押す——。
新田さんの葛藤や成長を近くで支えてきた立場からお話を伺いました。
目次
—移籍中の新田さんは、特にどんなところに苦労していたと感じますか?
移籍前、新田君は事業開発がやりたいって言っていましたけど、まさかここまでガッツリやるとは思っていなかったんじゃないかなと(笑)。
彼がプロジェクトマネージャーとして担当した個人向け「DFree」の事業はまだ何も始まっていない状態で。コンセプト設計やマーケティング、そこから着手する必要がありました。だから相当大変なミッションだったと思います。
特に苦労していたと思うのは現場の調整やチームの統括じゃないかなと。
新田君はリーダーという立場だったのですが、自分の意見を言わずに場の空気を読むタイプなので、皆の意見を全部吸い上げてしまって、どう決めていったら良いか長いこと悶々としていました。
—そんな時、細野さんは新田さんにどのような話をされたのですか?
よく「これ誰が決めるべきなんですかね?」と聞かれたので、「君だよ!」と伝えました(笑)。
とにかく自分がリーダーという自覚を持って走り出すことが大事ということです。そうすれば周りは自ずとついてくるので。だからまずは遠慮しないで「自分はこうしたい!」ってはっきり言ったほうがいいと。でも自分の意見を言えるようになるには自信が必要で。その自信となり得るのが、彼の場合は顧客の本心と触れる経験でした。この頃彼は新サービスに向けた調査で、社内の誰よりも顧客の家に直接訪れ、声を聞いていたので、「君の武器は顧客との接点だから、リアリティを持って話せることが強みになる」ということも伝えました。そこからは、更に積極的に顧客に寄り添えるようになったと思います。
もともと彼は「困っている人の役に立って、ありがとうと言われる」そんな、顧客に寄り添えるサービスを作りたいと言っていたんです。だから顧客に触れる中で「本当にこのサービスを必要としている人がいる」と実感してからは、スイッチが入って社内で自分の意見を発信できるようになっていました。自身でもオムツを装着するなどして顧客の気持ちを知ろうとする努力をしていましたし、そういう行動が社内での信頼につながって、だいぶ動きやすくなったんじゃないかなと。
—他に印象に残っているエピソードはありますか?
プロダクトが出来た後、必死に動いているのに思うような成果がでないって、もがいていたところですかね。いい体験しているなあと思いました(笑)。移籍者の経験という軸でいえば、上手くいかない…というこの悔しさこそが成長のチャンスなので。
成果が出ない、だったらどうする? 答えのない中手探りで探しにいき、とにかく試す。ダメだったらまた別の道を探すという、不確実性の中で進めていくやり方を身を以って学んでいました。
—移籍から戻ってきた新田さん。どんな変化を感じますか?
移籍を経て「いい二番手」になれたんじゃないかと思います。
通常、一番手がビジョンを持っていて、それを仲間に伝えていくとか実行していくハブになる人が必要です。そういうポジションのイメージです。
新田君の場合、移籍終了の数ヶ月前に、移籍後の配属先を決めるに当たってNTT西日本から「新田さんは何をやりたいのか?」と問われていました。
この時彼はハッキリしたビジョンを持っていたわけではなかったので「無理やりやりたいことを見つけなくていいから、徹底的に顧客のリアリティを身につけた方がいい」と話しました。新田君は顧客に触れることで課題を発見し、ミッションが発動するタイプだと思いますので。
レンタル移籍というプログラムは、何かをしたい起業家を育てるプログラムではありません。ベンチャーに行くというと「やりたいことを見つけて、熱量を持って戻ってくる」と想像されがちですが、ビジョンがある社長の下で働くわけですから、その人以上のやりたいことがそこで生まれる方がレアです。それよりもクイックに動けるようになる方が大事だと、僕は思ってます。
ビジョンだけでは人は動かない。だからこそ、そこをどうやって動かしていくのか、それらを身につけることが大切。新田君は、それを実行する力を身につけて戻りました。
彼は今、NTT西日本で、チームでリーンに働く方法を実践する人材として活躍し始めていますが、まさにクイックに動き、チームを前進させる力が身についたからでしょう。
これからどんな活躍を見せてくれるのか、楽しみです。
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細野真悟さん Profile
新卒でリクルートに入社。リクナビNEXT、リクルートエージェントなどのサービス企画担当を経て、リクナビNEXT編集長、執行役員に。自ら実践を通じてイノベーションを起こすためのマネジメントスタイルの開発に取り組む。大企業がイノベーションを起こすためには「ベンチャーでのビジネス開発経験」が有効、しかしその機会が乏しいという課題意識を持っている中で(株)ローンディールと出会い、2017年からCSOとして参画。音楽SNSを手掛ける(株)nana musicのCOOも兼任。(2019当時)
Interview:小林こず恵