新規事業を成功に導くのは、結局「人」。大企業人材が覚醒する瞬間とは?
「事業を育てるには、人が育っていかないとダメ」
そう語るのはマクアケ共同創業者 木内文昭氏。事業を創るのも、結局は「人」だという。
2019年9月某日、BASEQホール(日比谷ミッドタウン内)にて、大企業における事業開発のサポートを行うマクアケと、大企業からベンチャーへ、レンタル移籍を通して新規事業を創出できる人材を育てるローンディールによるコラボトークイベントが行われた。登壇したのは、マクアケ共同創業者 木内氏と、ローンディール代表 原田未来。この日のテーマは「人材覚醒論」。
「新規事業」と「人材育成」の立場で、大企業の革新に伴走している2社が、事業創出の現場で見てきた「人材」の姿とは…? モデレーターに、三井不動産が運営するBASEQの運営責任者であり、大企業のオープンイノベーションを支援している光村圭一郎氏を迎え、「どうしたら新規事業・新サービスを生み出す人材になれるのか」「人が変わる瞬間とは?」などを切り口に、「人材の覚醒」を紐解いていく。
目次
—新規事業を成功させる鍵は、現場の強い意思と覚悟!?
「日本から新しいものが生まれにくくなっている。それを打破したい」
そう語る木内氏は日本で一番お金が集まるプラットフォームとしてメディアにも取り上げられた、クラウドファンディングサービス「Makuake」の共同創業者。プロダクトを中心に様々なサービスが誕生し、その数は累計7000を超える。現在は同企業の製品や事業を創出するサポートを行う「Makuake Incubation Studio(通称 MIS)」を立ち上げ、木内氏は事業責任者を務めている。
木内:企業の研究開発や素晴らしい技術の種を活かして、具体的に市場に生み出すまでのお手伝いができないかと思い、Makuake内の新規事業としてMISを創設しました。新規事業の事業計画を一緒に作ったり、プロダクトのデザイン・クリティブのご提案、パートナーのご紹介など、広くご一緒させていただき、3年半で17社32プロジェクトを立ち上げています。
木内文昭
株式会社マクアケ 共同創業者 / 取締役
新卒でリクルートグループに入社以降、複数の新規事業創出に携わる。2009年にサイバーエージェントへ入社し、2013年5月のMakuake設立から現職。SONY「FES WATCH」プロジェクトを皮切りに大企業の新商品・新事業創出時のクラウドファンディング活用を推進。現在は企業の研究開発テーマから具体的な商品・事業を生み出す『Makuake Incubation Studio』事業責任者として東証一部上場企業10数社での具体的なプロジェクトの立案実行支援に従事。MISは17社32プロジェクトの立ち上げ実績を持つ(2019年9月現在)。MakuakeIncubationStudioとして2019年度GOOD DESIGN賞受賞。
木内:サポートする中で、大企業では新規事業が生まれにくい構図がある、そう感じています。そもそも新たな挑戦が生まれにくいのはガバナンス文脈だと当然のこと。上は新規事業をどんどんやれと言っても、実際は、市場が魅力的で、自社に優位性があって、確実に儲かるということがロジカルに言えないと(大企業の中では)事業化が進まない。
しかしながら、新規事業はロジックを作るのが難しい上に、既存事業側の効率経営を重視する視点からみると非効率極まりない。加えて上長が新規事業未経験者だったり、複数の部門の決裁が必要だったり、企業としていつまでもGOが出せず、担当者が電池切れになってしまうというパターンが往々にしてあります。
ただ…、数多くの企業と「具体的に社名を出して売上を立てるところまでアウトプットする」というプロセスをご一緒する中で気付いたことがありまして。それは、担当者の強い意思によって、この構図を変えられるということでした。
光村:新規事業はそもそも非合理的なものだから、合理的な判断を求められる大企業の経営側の感覚からすると相容れないので、意思決定しにくい。それを突破するところの鍵が、「絶対通したい」という担当者の強い意思やリーダーシップということですね。
光村圭一郎
三井不動産 ベンチャー共創事業部 統括/BASE Q運営責任者
講談社を経て、 2007年、三井不動産入社。2012年より新規事業担当、2014年より新規事業の一環で日本橋・三越前に『Clipニホンバシ』を開設。2018年、東京ミッドタウン日比谷に『BASE Q』を開設し、大手企業のオープンイノベーションを支援するプログラムの提供を開始。
木内:そうですね。当然、この事業が本当にいけるのかという指標を作ることは大事なので「Makuake」ではテストマーケティングをして数字の根拠や実績を作るお手伝いをしているわけではありますが、最終的には、担当者本人が「これは絶対にやりたいんです」という覚悟によるところが大きいと考えています。覚悟があるから社内調整が大変でも諦めないし、周りを動かしていける。
光村:経営側も本音では(新規事業を)やってほしいし、やらねばと考えている。だからこそ現場の覚悟が見えると「やらせてみるか」って思うんじゃないかなと。ローンディールのレンタル移籍も新規事業の文脈で導入する企業も多いそうですが、ベンチャーでのどういう経験が新規事業に活きるのでしょうか。
原田:例えば、大企業では「これをやってね」と業務範囲が明確化されていますが、ベンチャーに行くと、仕事は与えられるものではなく自分から取りに行かなければいけません。加えて「何をすればいいか」も自分で考えて動く必要がある。社外との接触においても大企業の看板を外すわけなので、後ろ盾がなく、自分の力で突破していかなければならない。正解もありません。最終的には自分たちが正しいと信じてやるという状況です。これらの経験によって、“自分がどうしたいのか”という意思を持つようになるので、マインドセットがだいぶ変わると思います。
原田未来
株式会社ローンディール 代表取締役社長
2001年、創業期の株式会社ラクーン(現 東証一部上場)に入社、営業部長や新規事業責任者を歴任。2014年、株式会社カカクコムに転職し事業開発担当。人材流動化の選択肢が「転職」しかないことに課題を感じる。「会社を辞めずに外の世界を見る機会」「企業の新しい人材育成の仕組み」として企業間レンタル移籍プラットフォームを構想。2015年に株式会社ローンディールを設立し現在に至る。現在、28社66名の実績がある。
—這い上がっていく、臆せずに挑戦していくという経験が大きな価値に
原田:例えば、パナソニックの落合さんの例をご紹介すると。今まで、研究開発をされていた方なのですが、Telexistence株式会社というロボティクス開発をしているベンチャー企業に行って、最初の仕事は資金調達でした。経験はないし、何から手をつけていいのかわからない状態。当然、最初は撃沈するわけですが、試行錯誤の結果、最終的には数億円の調達に成功しました。
大事なのは、今までの自分のやり方が通用しない、考え方を変えなきゃいけないという状態を経験して、そこから這い上がっていくということ。また臆せずに挑戦していくという経験も大きな価値になります。既存の組織の場合、挑戦してうまくいかなかったら失敗と見なされますが、ベンチャーだと、そもそも挑戦していないことが失敗。やってダメでも、ダメだったと答えが出たから前進したと考える。これって、大企業の中で挑戦してくプロセスにも応用できるんじゃないかと考えています。
光村:移籍から戻った人の中でこんな活躍をしているという事例はありますか?
原田:様々なケースがありますが、移籍していたベンチャーと新規事業を創った例があります。NTT西日本の佐伯さんは、自社に戻った後、ランドスキップという風景動画配信サービスの企画開発を行うベンチャー企業と新サービスをローンチして、今プロジェクトの責任者をしています。
立ち上げ当初は、既存組織の中で企画を通して仲間を集めて…ということにかなり苦労されたようでしたが、どうしても形にしたいと、会社を辞める覚悟で挑んだ結果、見事、1年でローンチに至りました。彼の覚悟によって、周りも覚醒していったのかもしれません。先ほど木内さんのおっしゃっていた、担当者の強い意思が会社の構造を変えていく、ということと同じかもしませんね。
木内:おっしゃるとおりで。我々の例でお話しすると、以前、シャープさんと一緒に、液晶の研究技術を用いて、-2℃で味わう新しい日本酒体験をコンセプトに日本酒を作りました。シャープのご担当の西橋さんは、社内で沢山の稟議の判子をもらわないといけないとか、プレゼンを幾度もする必要があったりと、かなり社内で奮闘されたようでした。周りからは、普通だったらここまで出来ない…と言われたらしく、相当なエネルギーを使ったのではと思います。結果、1800万円を超える支援を集めて完売したので本当に良かったなと思いますね。
ー新規事業には、“自分らしさ”を取り戻すプロセスが?
光村:やっぱり担当者にもともとモチベーションがあることが大事なようです。しかし、必ずしも全員が、最初からモチベーションが高いわけでもないですよね。そういう場合はどうしているんですか?
木内:基本的には100%やりたいという状態でご一緒しています。「なぜやりたいんですか?」とヒアリングした時に、核となる想いがない場合には、出会うのが早すぎましたね、タイミングを待ちましょうって(笑)。
当然トライしている中で、いけそうだと見えてきて、やりたいという気持ちが醸成され、腹が決まるという覚醒プロセスはあるものの、最初から「進めたい」という意思がないとなかなか社内で通せない。立ち上げ準備の3分の1くらいは社内で通すための動きになると思うので、自ら動けるモチベーションを持っていないと難しいと思います。
原田:レンタル移籍も誰でもお受けしているわけではありません。エントリー制と会社の選抜、両方のパターンがありますが、「なぜこの経験をしたいのか?」「自社に戻った後は何を成したいのか?」 内省により、言語化する時間を設けています。その理由があまりに消極的だと、ベンチャーに行くことが適正ではないかもしれない。まだ準備ができていないかも、と仕方なくお断りすることもあります。能力の有無ではなく、あくまで本人のマインドを大事にしています。
木内:自分の仕事や自分の人生に責任を持つことで、覚悟ができるのかなと思いますね。やっぱり新規事業においては、会社というフィールドを通じて自分がやりたいことじゃないと最後の収益化までやりきれない。(事業開発のプロセスには)リーダーシップを築くとともに、自分らしさを取り戻すプロセスもあるのかもしれない、と思っています。
—最後に問われるのは、みんなが当事者になれるかどうか
最後に。イベントの結びとして、新規事業で人材が覚醒するポイントを光村氏がレビューした。
光村:お二人の話を伺って。誰も彼も新規事業を期待するのではなく、ある程度、覚悟を持った状態にある人を選抜していくことが大事だとわかりました。そして「Makuake」のプロジェクトにしてもレンタル移籍にしても、正解がない状況に直面しながらも物事を前に進めていこうとするプロセスがありますね。このプロセスによって、人材が覚醒していくということなのでしょう。一方、いくら担当者ひとりが組織の中で覚醒しても成功は難しい。周囲のサポートがあって初めてうまくいく。支える人や組織の存在も大きいですよね。
原田:支える人でいうと、レンタル移籍では担当専属メンターがついて、本人が走り続けられるように、とにかく横で頑張れって言い続けています、それは自社に戻ってからも数ヶ月間続けています。また、組織でいうと、移籍者の上司の人に対して勉強会の企画をするなど、なるべく周囲も巻き込んで、経験を自社で活かしてもらえるようサポートしています。
光村:社内に支える人がいないと孤立するだけ。事業をつくる人と支える人が気持ちよくできる制度が必要ですね、会社には。
木内:会社としてのバックアップはすごく大事です。事務局やチームとの良い関係性を築いて、転んでもいいと思えるくらいの心理的安全を高めていかないと、チャレンジできない。事務局側がギスギスしているとうまくいきません。これらチームのサポートやマネジメントも僕らでお手伝いできればと考えています。
光村:最後に問われるのは、支える人も含めてみんなが当事者になれるかどうか。担当者だけじゃなくてみんなが覚悟を持って取り組み、覚醒していくことが大事ですね。
協力:株式会社マクアケ、BASE Q
Report:小林こず恵
【 レンタル移籍とは? 】
大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2016年のサービス開始以降、計24社48名以上のレンタル移籍が行なわれている(※2019年8月実績)。→ お問い合わせ・詳細はこちら