「トレンドマイクロを変える人材になるために」トレンドマイクロ 根岸泰宏さん -後編-
「トレンドマイクロを変える人材になるために」 トレンドマイクロ 根岸泰宏さん -前編-
目次
導入したばかりのサービスをいかに活性化させるか。
模索の末に見つけたひとつの仮説
全世界6800名もの社員を抱えるトランスナショナルカンパニー・トレンドマイクロ。そこで10年間、キャリアを積んできた根岸さんは、事業を創る力を身につけたいという想いから、自らレンタル移籍を志願した。
移籍先は、社員4名(当時)のハッカズーク。移籍当初はうまく周囲とコミュニケーションがとれず、行きづまりを感じていたが、代表の鈴木社長のサポートを受け、少しずつ課題を克服。カスタマーサクセスとしてブレイクスルーのきっかけを掴もうとしていた。
「ちょうど新しく電通さんがOfficial-Alumni.comを導入することになって、そのカスタマーサクセスを僕が担当することとなりました。電通さんと言えば、日本を代表する大企業であり、アルムナイ(退職者)の人数も圧倒的。その中でOfficial-Alumni.comをどう活用すれば、電通さんにもアルムナイにも価値を創出できるかが、僕の課題でした」
多彩な業界で活躍する電通アルムナイ。そのネットワークが整備化されれば、電通にもアルムナイにとっても資産になることは間違いない。だが、単に登録人数を増やせば成功なのかと言えば、そうではない。Official-Alumni.com上で、情報交換など活発なコミュニケーションが交わされることで初めてビジネスコラボレーションのチャンスが生まれる。
「だけど、電通さんと言えば多種多様な人材がいる。アルムナイの活躍している業界も多岐にわたり、どうやってフィールドの異なる個性豊かな顔ぶれをつなげていくか、最初はなかなか糸口が見つけられませんでした」
そこで行ったのが、アルムナイに対して直接ニーズヒアリングを行うことだった。様々なアルムナイへのインタビューを経て、根岸さんはひとつの気づきを得た。
「わかったのが、アルムナイのニーズはそれぞれということでした。アルムナイがOfficial-Alumni.comに求めていることがバラバラだから、それぞれに最適化したコンテンツを提供しなければ活性化は図れない。そこでまず試したのが、アルムナイをセグメントごとに分けることです。たとえばスタートアップ同士でつながりたいというアルムナイもいれば、業界別でつながりたいというアルムナイもいる。目的に合ったコミュニティをつくり、そこでアルムナイ同士がつながりを持てれば、いい連携が生まれるのではと考えました」
そんな根岸さんの提案が採用され、現在、電通のOfficial-Alumni.com上には様々なコミュニティが形成されている。新型コロナウイルス の影響もあり、計画していたアルムナイ同士の交流会などはペンディングとなったが、電通社内におけるOfficial-Alumni.comへの満足度は高く、今後も積極的にアルムナイリレーションをとっていく予定だ。
難しければ難しいほど、介在価値がある。
直接声を聞くことで再確認した事業の意義
また、カスタマーサクセスのみならず、広報やマーケティング領域でも新しい経験を積むことができた。中でも、根岸さんにとって大きな収穫となったのが、リアルイベントであるALUMNIGHT(アルムナイト)の企画だった。
ALUMNIGHTは元同僚同士が再会し、新たな交流を創出するためのリアルイベント。2018年に初めて実施し、第2回となるALUMNIGHTを根岸さんが担当することとなった。1回目との違いは、参加条件は元同僚ではなく、上司と部下。再会のハードルは、同僚よりもずっと高い。
「同期なら会社を辞めたあとも付き合いはあるけど、上司と部下となるとそうはいかない。退職後はほとんど付き合いがないという人の方が多いと思うんですね。でもだからこそやる価値がある。難しければ難しいほど面白いと思って、あえて1年以上会ってない上司と部下という条件にしました」
ハードルが高い分、当然、人員集めは困難を極めた。より多くの人に周知させられるよう、メディアへのアプローチも積極的に行った。特別な機会がない限りつながることのない間柄。だからこそ、自分たちの介在する価値がある。そう信じて取り組んだ結果、当日の集客も上々。さらに、NHKのビジネス番組で特集を組まれるという想定以上の成果をあげた。
潤沢な予算も知名度もないスタートアップの広報にとって、公共放送であるNHKに取り上げられることは文字通りの大金星。それも「上司と部下が再会する」という難易度の高い条件にあきらめることなくトライした結果だった。
「イベント終了後、参加した方から感想をうかがったんですけど、みなさん、『この企画がなかったら会うことはなかったけど、こうやって会ってみたら関係を持ち続けることの重要性がわかった』とおっしゃってくれて。その声が何よりうれしかったです。アルムナイリレーションの価値を改めて自分自身が再確認できたし、ちゃんと会えばメリットを感じてもらえると納得感を持てたことで、その後も自信をもって提案できるようになりました」
▼イベントのレポートはこちら
https://alumnavi.official-alumni.com/alumnight-2
レンタル移籍を終えて感じること。
あの約1年が、自分の転換期となった
トレンドマイクロを変える人材になりたい。そのために必要なゼロからイチを生み出す力を身につけるべく、根岸さんはレンタル移籍に挑戦した。約1年という短い期間だったが、導入したばかりのOfficial-Alumni.comの登録者の獲得とコミュニケーションの活性化に取り組み、ALUMNIGHTでは企画から集客、当日の運営までをひと通り経験することができた。どれも、スタートアップという未知なる環境に飛び込んだからこそ築けた財産だ。
そして、ハッカズークで学んだことは、レンタル移籍を終え、トレンドマイクロに戻った今も活かされている。
「移籍終了後は、セールスイネーブルメントグループという新設の部署に異動し、グループ長としてメンバーを統率しています。また、デジタルコンテンツ推進プロジェクトというバーチャルチームのオーナーを務めています」
そう晴れやかな表情で近況を語る根岸さん。セールスイネーブルメントとは、営業組織を強化・改善するための仕組みづくりのこと。アメリカから生まれたこの考えは今、日本企業でも着々と普及しつつある。トレンドマイクロでもこのセールスイネーブルメントの可能性にいち早く着目し、新卒入社した営業社員を早期戦力化させるための組織を立ち上げることとなった。根岸さんはそのスターティングメンバーに自ら立候補。グループ長の任を受け、営業プログラムの開発から7名のメンバーのマネジメントまでを担っている。
「僕がこのセールスイネーブルメントグループに立候補したのも、スタートアップを経験したからなんです。ハッカズークで約1年間働いて、事業をつくるのは人なんだと実感した。だから、トレンドマイクロを変えたいと思うなら、まずは人を変えていくことが大事。そのためにも育成に関わりたいなと思って、セールスイネーブルメントグループに挑戦することにしました」
グループ長という重責を遂行する上でも、ハッカズークで鍛えた経営者目線が基礎筋力となっている。
「ハッカズークでは全員が自分たちの組織はどうあるべきかというレイヤーから物事を見ていた。そんなふうに視座を上げて状況を見渡せるようになったのは、すごくプラスになりました。セールスイネーブルメントグループの今後を考えるにあたっても、上層部の人たちに近い目線で見ているから、大きく方向性がズレることはないですね」
さらに、今まで出会うことのなかったタイプのビジネスパーソンと関わりを持てたことが、自分自身のモチベーションに火をつけてくれたと根岸さんは証言する。
「スタートアップにいる人たちってやっぱり覚悟が違うんです。ちょっとした判断ミスで、事業が潰れることもある。そんな危機感と隣り合わせで仕事をしている人と、ごく普通の会社員では懸けているものが違う。命を懸けて仕事をしている人は、資料ひとつにしても細かいところまでよく見ているし、何をやるにしても徹底的にやりきる姿勢を持っています。その強い覚悟には、大きな影響を受けました」
また、多くのアルムナイと出会ったことで多様性も学んだ。
「ひとつの会社にいると、どうしてもその会社の中しか見えなくなってしまう。けれど、こうしていろんな会社で働いている人たちの話を聞けたことで、世の中には僕の知らない多様な働き方があることを知れたし、自分の知っていることがすべてではないと実感できた。特に電通の方にはたくさんお会いしたので、すごく勉強になりましたね。電通アルムナイの方って本当に多方面で活躍されている方が多く、ビジネス機会の発見とビジネスの創造に長けている。そういうところが成功されている要因なんだろうなと思ったし僕ももっと頑張らなければと刺激をもらいました」
実際、トレンドマイクロに帰ってからも、周りの人たちから「自分の意見を言うようになった」と言われることが増えたのだとか。1年間のレンタル移籍でもらった火は消えることはなく、確かな熱となって、今、根岸さんを突き動かしている。
そんな根岸さんだからこそ語れるレンタル移籍の意義は何だろうか。
「もとの企業に籍を置いたまま、未知の世界で思い切りチャレンジできるところが、レンタル移籍の魅力だと思います。正直、約1年間やってみて、自分にスタートアップ適性があるかと言ったら、胸を張ってイエスとは言い切れないなと思った。きっとこれが本当の転職だったらもっとためらったし、不安だったはず。でも1年間のレンタル移籍だったからこそ、開始前から“できるかできないか”じゃなくて、“やるかやらないか”しか頭になかったし、実際その通りだった。このレンタル移籍で体験した約1年は、いずれ自分のキャリアを振り返ったときに間違いなく転換期だと言えるものになったと思います」
人のキャリアは、1年あれば大きく変わる。スタートアップで過ごした1年は、根岸さんにとって大きな学びの時間となった。
事業をつくるのは、人であるということ。だからこそ、会社を変えるには、まず人材の育成が基盤となること。ハッカズークで得た学びを胸に、トレンドマイクロを変える人材を目指して、根岸さんはこれからも成長し続ける。
Fin
▼ 関連記事
「トレンドマイクロを変える人材になるために」 トレンドマイクロ 根岸泰宏さん -前編-
協力:トレンドマイクロ株式会社 / 株式会社ハッカズーク
文:横川 良明
【オンラインセミナー 参加者募集中!】
不確実性が高まる時代、
大企業の変革を促進する「レンタル移籍」とは?
「イノベーションを生み出せる人材に必要なスキル・マインドは?」「そして、組織はそのような人材をどう活かすべきか?」ローンディール代表の原田が登壇し、レンタル移籍を導入している企業の実例を交えながら、個人そして組織の両面から、組織変革の鍵を探ってまいります。本イベントを通して、イノベーションを促進させるための人材育成・組織開発について考えるきっかけになれば幸いです。人材開発・新規事業開発に携わる皆さま、ぜひお越しください。
日程:2020年11月13日(金)
時間:14:00~15:30 講演・質疑応答
対象:大企業の人事・人材開発部門の方、ならびに新規事業開発・イノベーション推進部門の方
会場:オンライン開催。ZOOMにて配信予定
定員:30名
参加費:無料
主催:株式会社ローンディール
詳細:https://loandeal.jp/events/20201113seminar
【レンタル移籍とは?】
大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計41社115名のレンタル移籍が行なわれている(※2020年10月1日実績)。→詳しくはこちら