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2023 .10 .27

【レポート】「越境学習」を、経営者育成として活用するための要件とは


 

「次世代の経営者、リーダーを育てなくてはならない。」

 

経営者育成は、企業の人材育成におけるもっとも重要なテーマとして位置づけられているのではないでしょうか。

 

しかし現在、多くの大企業で経営者を育てるための機会不足が課題となっています。早期に経営者を育成したくても、社内に適したポストがなく必要な経験を積ませることが難しいのです。そのような背景から、経営者育成の手段として「越境学習」に注目が集まっています。

 

そこでローンディールでは、専門家・実践者の方々をお招きした連続セミナーを開催し、経営者育成に「越境学習」を活用する方法について議論してきました。本レポートでは、セミナーを振り返り、論点をまとめています。ぜひ経営者育成の参考にしていただければ幸いです。

 

 

経営者育成とは、リーダー育成である。

 

 

まず第1回目のセミナーでは、経営学者としてリーダーシップに関する著書を多数出版されている小杉俊哉先生をお招きして、「経営者育成」についてのお考え方を伺いました。

 

冒頭、小杉先生からまず、マネージャーとリーダーの違いを理解することが重要だという指摘がありました。物事を正しく行うのがマネージャーの仕事であり、「なぜこれをやるのか」という「WHY」から始め、正しいことは何かを常に考えるのがリーダーであり、イノベーションに必要なのはリーダーである、と。

 

その上で、企業にイノベーションが求められる以上、経営者育成とはリーダー育成であるということを整理していただきました。

 

 

 

しかしながら、日本企業の管理職はマネージャーとしての仕事に偏りがちであり、新しいことを始めようとする時にも、マネジメントでコントロールしてしまうために、イノベーションが起こらないのだとの指摘がありました。

 

それでは、どのようにリーダーを育てていけば良いのでしょうか?

 

そもそも、リーダーシップとは、新入社員の時から発揮できるものであり、その機会を用意していくことができると小杉先生は仰います。具体的には、社内の公募制度やオフィス環境の改善など、小さなプロジェクトでもよいので、そういう機会を社内に多くつり、自ら手を挙げで参加してもらう。そのプロセスの中で、高い学習意欲を示した人材に、次なる経験を提供していく。その延長線上で、経営者が育っていくとのことです。

 

では、リーダーになるために必要な経験とは何でしょうか。

 

小杉先生が上げてくださったポイントは2つです。まず、単一路線ではなくさまざまな経験をしていること、そして「修羅場・土壇場・正念場」を経験すること、です。具体的には、30代でPLに責任を持つという経験は必須とのこと。そして、できれば40代前半で組織のトップに立つことが必要な経験として挙げられました。

 

小杉先生は、このような経験を提供する手段の一つとして、「越境学習」の有効性を感じておられるとのことです。

 

確かに、全く資本関係のないベンチャー企業に身を置き、常にキャッシュフローを意識しながら事業を進めていく経験は、まさに「単一路線ではない経験」であり「修羅場・土壇場・正念場」であるため、経営者育成の機会として貴重なものといえそうです。

 

>> 【こちらもお読みください】小杉俊哉先生と考える「これからの経営者育成に越境学習がどう役立つのか?」(note)

 

 

経営者育成の機会が枯渇している!?

 

 

これを受けて第2回目のセミナーでは、ローンディール最高執行責任者の楠原が登壇し、経営者育成における課題と「レンタル移籍」の仕組みをご紹介しました。

 

「レンタル移籍」は大企業人材に一定期間ベンチャー企業で働く機会を提供する仕組みです。2023年9月時点で73社272名の実績を有していますが、最近この仕組みを経営者育成として活用する動きが増えているのです。

 

従来、大企業の経営者育成は、課長・部長・経営層それぞれの階層において、本社・グループ会社・海外拠点などを活用してきました。しかし、最近は経営者育成の機会となるような新しいポストがない・既存のポストが空かないという声を聞くことが増えています。

 

つまり、小杉先生の指摘された「単一路線ではない経験」であり「修羅場・土壇場・正念場」としての機会が、企業内で用意できなくなっている。このような背景が、経営者育成としてのベンチャー企業の活用が増えてきている要因となっているようです。

 

 

セミナー内では、レンタル移籍の仕組みに加えて、ベンチャー企業に身を置くことで起こるマインドの変化を紹介しました。

 

 

会社の看板を使えない環境に身を置くことで自社の経営資源に気づく、スピード感や周囲を巻き込んだ行動が求められるといったことが挙げられますが、最も大きな変化が起こるきっかけは、「正解がない」ということです。「経営者は正解を持っていないのだ」という気づき、そして正解がない中でどのように意思決定をしていくのか意思決定をした上でどのように前に進めていくのかということを、身をもって経験するのです。

 

このような個人の経験を得られるという期待が、経営者育成として「レンタル移籍」が注目されている理由となっているようです。

 

それでは、具体的に経営者育成としてのレンタル移籍を、企業はどのような制度の中で活用しているのでしょうか?

 

ベンチャー企業での経験はリーダーシップを育むのか?

 

 

第3回目のセミナーでは小野薬品工業でイノベーション人材の育成を担う藤山さん、そして実際にレンタル移籍を経験した大野さんにご登壇をいただきました。

 

小野薬品工業は、イノベーション人材の育成を目的としてOno Innovation Platform(OIP)という取り組みを2021年6月から開始しており、「学習と経験の場」「挑戦の場」を用意しておられます。その中で、修羅場度合いの高い経験の場としてベンチャー出向プログラム(レンタル移籍)を位置付け、毎年4〜5名がベンチャー企業での挑戦に送り出しています。

 

 

小野薬品は単一事業かつ機能別組織となっており安定しているため、小杉先生の指摘された「PL責任を持つ」環境がつくりにくい状態になっているとの課題認識があったそうです。そのような背景から、圧倒的な当事者意識や行動力、挑戦に対するレジリエンスを身につけてくれることを期待して、レンタル移籍の活用に至ったとのこと。

 

元来このプログラムはイノベーション人材の育成を目的として作られたものですが、実施ていく中で経営者育成としての期待も広がっていったそうです。修羅場を経験した人間が、将来の小野薬品を背負っていくという期待を現在の経営陣も持っており、人選の段階から意識しているとのことでした。

 

実際にプログラムの成果や課題についても、小野薬品にいたらこんな発想はしなかっただろうなということもあるし、経営者のような発言が増えていると手応えを感じているそうです。

 

ただ一方で帰任後については、まだ取り組みを始めて日が浅いこともあり明確に成果が出ているというところまではいかず、事業に貢献しているところを見せつづけていかなければいけないところに難しさを感じておられるとのことでした。

 

続いて、2021年10月から1年間、実際にベンチャー企業にレンタル移籍をした大野さんに登壇をいただき、お話を伺いました。

大野さんは移籍当時45歳、課長として卒なくチームをマネジメントできていた一方で、自分をブーストさせたいと考え、知識や経験が通用しないところに飛び込もうと考えてレンタル移籍を決意したとのことです。

 

レンタル移籍をしたのは、小野薬品の事業とは全く関係のないAIベンチャーであるLightblue社でした。レンタル移籍中はマーケティング担当、プロダクト担当、事業担当と範囲げながら、経験を広げていきました。

 

大野さんのコメントとして印象的だったのは、レンタル移籍の期間を通じて、自分の意識であるという意識が芽生えたという点です。その理由は、会社全体が見渡せて、どういう機能があって、それがどう収益につながっているのか、というのが見えたことが大きいとのこと。

 

 

レンタル移籍経験を経て、会社全体を俯瞰し、将来展望を自分ごと化して行動できているといいます。復帰後に部長となり、「開発の成功確率を高めるためにできる新しい取り組みは何か?」といったテーマを設定して探索し、もがいているとのこと。

 

そんな大野さんは、組織に変化を起こしていくために何が必要だと考えているのかを伺ったところ、「自分が行動する」ということを強調されていました。自分の行動を見せることで、変化を感じてもらう。そして、同調してもらう環境を作ろうと心がけているとのことで、まさに小杉先生がおっしゃられていたリーダーシップの発露が見て取れるという印象をうけました。

 

>> 【こちらもお読みください】なぜ、小野薬品工業は「経営者育成」でベンチャーを経験させるのか? 導入から3年で見えてきた効果と課題(note)

 

 

正解がない環境に身を置き、PL責任を持ち、自ら意思決定し、行動する。

 

ここまで、3回のセミナーをダイジェスト的にご紹介してまいりました。経営人材育成の観点でも、越境学習を活用できる可能性は大いにあると感じていただけたのではないかと思います。

 

ただし、単に越境学習さえすれば、それが経営者育成になるということではありません。今回のセミナーを経て明確になったのは以下の点ではないかと思います。

 

  • 単一路線ではなく、かつ正解がない環境に身を置く。
  • PL責任を持つ。
  • 自ら意思決定し、行動する。
 

このような要件を満たした「越境学習」であれば、経営者育成として効果的であるということができそうです。

 

最後に、先日のセミナーで小杉先生がおっしゃられていた言葉を紹介します。

 

リーダーを育てる方法に、正解はありません。
経験を通じて「自ずとリーダーになっていく」と捉えた方が良いのかもしれません。

 

経験が人を育てる。

 

そのために企業として、どのような経験を用意できるのか。最適な人材に、その経験を提供できるか。イノベーション創出が企業の最重要課題となっている今、改めて自社にある経験・機会を、リーダーシップ育成という観点から見返してみてはいかがでしょうか。

 

私たちローンディールは、700社以上のベンチャー企業ネットワークを活用するとともに、越境期間中の伴走を通じて、上記に記載したような経営者育成の機会を設計のお手伝いができます。ぜひ、経営者育成の新たな施策を検討中の企業様はご相談ください。

 

>>「レンタル移籍」他、越境施策導入のご相談はこちらから

 

(文・原田 未来)

 

 

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