コラム・インタビュー

ローンディール・スタッフコラム

越境の先にある、まだ見ぬ未来へ。ローンディール共同代表が語る「変容の連鎖」と、新体制1年の現在地

2025年7月、創業者の原田未来からバトンを受け継ぎ、後藤幸起と大川陽介の2名による共同代表体制へと舵を切った株式会社ローンディール。

この1年で、「越境」という言葉は人材育成や組織開発の文脈でさらに広がりを見せています。一方で、越境が広がるほど、個人の経験を一過性の学びで終わらせず、組織や社会の変化へとつなげていくことの重要性も見えてきました。
そうした現在地を踏まえ、ローンディールは2026年1月に新たなミッション「越境によって、変容の連鎖を生みだす」を発表しました。

共同代表就任から1年。越境のあり方はどのように変化しているのか。そして、「変容の連鎖」が目指す、意志と知がめぐる社会とは。後藤と大川が、ローンディールの現在地とこれからについて語りました。

「越境」という言葉が、社会に浸透してきた

――共同代表体制になってから、ちょうど1年が経ちました。この1年はどのような時間でしたか?

大川:この1年間で、「越境が盛り上がってるね」と言ってもらうことが格段に増えましたね。ローンディールは、企業間で人が動くことで新しい経験ができる「レンタル移籍」という仕組みを提供することからスタートし、後から「越境」という概念が出てきたんです。今ではたくさんの方が越境という言葉を使いますし、自ら越境を求めるようになったとも感じています。

後藤:同感です。以前は、問い合わせをいただく企業の方から越境という言葉が出てくることは稀で、「社員をベンチャー企業に行かせて、武者修行をさせたい」といったダイレクトなご要望が多かったんです。ところが、最近では「人材育成の施策として越境を検討しています」とお声がけいただくケースが増えました。

大川:ここ数年の広がりの背景には「越境学習」の研究で第一人者である、法政大学の石山恒貴教授が執筆した書籍『越境学習入門』で、レンタル移籍が紹介されたことも影響していると思います。ローンディールでも昨年、創業者の原田が書籍『越境人材』を出版し、越境の価値を伝えています。

実は、国際的にも越境の価値が見出され、アカデミックの領域も盛り上がりを見せていますね。2026年、日本の越境学習研究が初めて国際ジャーナル『Human Resource Development International』に論文として掲載されたことは大きな一歩です。

後藤:越境への注目が高まるなか、その期待に応える新たなチャレンジをどう形にするか、必死に模索し続けた1年だったと思います。まさに、僕たち自身がローンディールという会社の中で「移籍」を経験しているような感覚でした。

大川:そうですね。代表取締役という役割に就くのは初めてだったので、越境者が未知の環境に飛び込んだ時に感じる「どうすればいいんだ」という試練や葛藤を、身をもって体験した1年でした。

一人の変化だけでは足りない。「変容の連鎖」に込めた想いとは

――新しく掲げたミッション「越境によって、変容の連鎖を生みだす」という言葉には、どのような決意が込められていますか?

後藤:ローンディールは、創業からの10年あまりでレンタル移籍を中心に延べ1,500人以上の越境をサポートしてきました。組織と個人との絆を保ったまま新しい世界に触れ、元の組織に戻って貢献する。日本的な雇用慣行を大事にしながら、組織も個人も成長する仕組みを提供したいという想いを企業の方に伝えると、以前はよく驚かれたのですが、最近は共感いただけることが圧倒的に増えました。

このコンセプトに特別感がなくなってきたということは、かつてのミッション「日本的な人材の流動化を創出する」は、社会の働き方についての考えが大きく変化していることに加え、越境も後押しし、一定のレベルで達成できたのではないかと考えたんです。

ただ、多くの越境者の変化を見てきた一方、人が動くだけでは組織は変わらないという厳しい現実も目の当たりにしてきました。越境して、変化を起こす「熱源」となって帰ってきても、大企業の慎重な意思決定や前例主義にぶつかって、せっかくの熱が消えてしまうケースが少なくなかったんです。

大川:そうなんですよね。越境学習は、個人が自らの意思で新しい経験をすることからスタートします。ただ、そこから組織全体にインパクトを与えるには、組織が意図をもって社員を異なる環境に送り込み、戻ってきた後はその人を活かしながら組織を変えていくことが必要です。

それでも近年は、企業の方々も越境者が戻った後でどう活躍してもらえるといいのか、そのための配置や業務アサインはどうあるべきかを真剣に考えるようになっていると感じます。越境にしっかりと予算を付け、戦略と紐づけてレンタル移籍を行うケースが多くなってきました。

越境を、個人への教育で終わらせない。組織が経営戦略・事業戦略の中にきちんと位置づけて、越境者を育て、活かしていく。そうやって個人の経験を、組織の力に、そして周囲への影響へと広げていく——その想いを言葉にしたのが、新しいミッションです。

だからこそ、一人だけの、あるいは一時的な「変化」では足りないと思っているんです。内面から根本的に変わる「変容」にこだわりたい。そして、その変容を個人の中で完結させない。一人の変容が、組織を戦略として動かし、その熱がまた次の人へと伝わっていく。個人から組織へ、組織から周囲へと何層にもつながっていく広がりこそが、僕たちの考える「変容の連鎖」なんです。

――今回、ミッションに加えてビジョン「意志と知がめぐる社会」も策定しました。

大川:創業からの10年間で、越境することで芽生える意志や知が周囲にいる人たちに触れたとき、その流れがつながっていく場面に何度も出くわしたんです。これこそが、僕たちがもっとたくさん見たい景色だと思って、今回、ビジョンにしました。

後藤:ただ、新しいミッションやビジョンは、真新しいゴールを掲げたわけではなく、ローンディールが大切にしてきたことを改めて言葉にしたという感覚です。創業時から想い描いてきた世界に、僕たちは確実に近づいている。その現在地をふまえて、これから歩んでいきたい方向を表現しました。

個人の越境が、組織を越境させ、社会を動かす

――「変容の連鎖」がまさに起こっている越境のエピソードはありますか? 

後藤:ある大企業の部長の方が、アメリカ赴任をきっかけに「これからは、スタートアップが盛り上がる時代だ」と感じて、部下をレンタル移籍に送り出した事例があります。

その方は、移籍から帰ってきた部下の圧倒的な成長ぶりを見て「自分も変わらなきゃいけない」と心を突き動かされ、ローンディールと一緒に、日本の地域に大企業の人材を送り込んで事業開発を経験するプログラムを作りました。このときすでに、越境者である部下の変容が、上司である部長の方に連鎖しているんですよね。

プログラムが完成すると、その部長さんは自ら管理職を降りてまで、トライアルとして高知県の土佐町へ越境することを決断したんです。現在もなお、森林荒廃や水不足を解決するための仕事をしています。こうして自社が地域の事業開発に新たに携わるという、組織の越境が実現しているんです。

さらに、その方が土佐町で活動を始めたという話を聞きつけた多くの企業が、「うちの会社も何か力になれるかもしれない」と現場を訪問しています。その人数は、1年あまりで100人以上にものぼるといいます。訪れた企業同士の横のつながりも生まれているんです。

たった一人の変容が、周囲の意志に火をつけ、組織やセクターを超えた大きなうねりになっていく。僕たちがやりたいのは、こういう「変容の連鎖」なんですよね。



大川:意志が動いて、知が引き寄せられ、パッションが燃え上がる。これが連鎖の仕組みなんだろうと思っています。

そして、個人の越境だけでなく、組織の越境にまで発展したからこそ、次のフェーズとして社会に影響を与えられる。個人の越境に組織や戦略の文脈が加わることで、変容の流れはぐっと大きなものになります。こうした考えが、MIMIGURIさんとの組織開発における協業にもつながっているんです。

AIには代替できない人間ならではの資産。越境でしか得られないものがある

――生成AIが普及するなかで、越境という体験の価値はどう変わっていくと考えていますか?

大川:AIの進化によって、言葉にできる知識である「形式知」の価値は相対的に下がっています。これからは、言語化されていない「暗黙知」や現場で得られる「身体知」、そしてマインド面である「情熱」の重要性が増していくでしょう。

AIを前提に仕事を進めることが当たり前になれば、人材育成のあり方も変わっていきます。知識をインプットするだけでなく、それをどう使い、どのような問いを立て、誰と協働しながら価値に変えていくのかが、より重要になるはずです。

越境は、未知に挑む経験です。正解がない中で、まずやってみる。行動しながら学び、体の中に実践知を取り込んでいく。この高密度な経験によって得られる「暗黙知」や「身体知」、「情熱」は、どれだけAIが進化しても代替できない、人間ならではの資産です。

ただ、面白いのは「AIには代替されない力を学びにいく」という話の裏で、実はもう一つ別の面もあって。AIを使いこなすスキルそのものも、越境すると一気に伸びるんです。大企業の中だと、どうしても「まず承認を」となりがちなことが、ツール活用の制約が少ないベンチャーでは「とりあえずやってみよう」で動いていく。その環境でAIを徹底的に触り倒して、半年から1年で使いこなせるようになり、戻ってから自社のAI活用を引っ張っていく。そういう事例が、最近増えてきました。実際、とある大手金融機関でも、AIを使いこなせる人材を育てることそのものを目的に、移籍者を追加で送り出すことを決めたほどです。

だからこそ、人事に求められる役割も、研修や制度を用意することにとどまらなくなっていくと思います。一人ひとりがどのような経験を通じて変わり、その変化を組織にどう還元していくのかを設計することが、より大切になるのではないでしょうか。
企業人事の役割も、目に見えないパッションの伝播をどう設計するかという、よりクリエイティブで、人に向き合う仕事にシフトしていくでしょう。暗黙知を形式知化して、体験していない人に伝えていくことがますます大事になりますね。

――最後に、ローンディールが目指す未来の社会像について教えてください。

後藤:ローンディール自身が、新ミッション・ビジョンの実現に近づいていければ、世の中はより良くなっていくと信じています。

一つの越境が起こると、その人の変容に影響を受ける人が出てきて、連鎖が起こる。これをもっと広げることができれば、社会のいろいろな課題が発見されて、解決に向けて物事が前に進みやすくなるはずです。一人や一社ではできないことも、関わる人が多層的になれば実現できる可能性は高まりますから。

大川:変容が連鎖するきっかけを多く生み出し、いろいろなプレイヤーが自分たちなりに動いていくことが当たり前になる社会になるといいなと思っています。

越境によって異なる意志と知がぶつかり合うことで、今の世界にはまだない何かが生まれ続ける。そんな社会を、これからも楽しみながら作っていきたいと思います。

Fin.

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