「動いてみたことで、見えた世界」東芝テック株式会社 高畠政実さん -前編-
「ダメな時は、やっぱり動いてみるしかないんですね…」
そう話すのは、東芝テック株式会社に入社し、今年で16年目になる高畠政実(たかはた・まさみ)さん。高畠さんは2019年、入社15年目の時に「レンタル移籍」を経験しました。半年間のベンチャー経験の中で、あることをきっかけに、精神的にとことん落ち込んでしまいます。しかし自らの行動によって克服したことで、結果、自信を得ていくのでした。
ピンチをチャンスに変えた高畠さんに、どんな変化が訪れたのか?
半年間の奮闘した日々について、伺っていきます。
(※ 本記事は、2020年5月に行われたインタビューをもとにしています)
入社15年目でベンチャーへ。自分を変えたい
ーー高畠さんはこの4月に、「レンタル移籍」を終えて、ベンチャーから東芝テックに戻ってきていらっしゃいますね。今、どんなお気持ちで仕事をされているのでしょうか? モチベーションが高まっているとか、それとも…。
「それで言うと、早くベンチャーでの経験を今の仕事に活かしたいと思っています。リモートワークなどの関係で、まだ十分な動きはできていないのですが。実はベンチャーで過ごした半年間、…色々あったんですね(笑)。でも今は、”色々あったことで”、結果的にいい経験ができたと思ってます。たくさんの方に支えていただいたこともあって、感謝の気持ちもすごくある。だから早く会社に還元したいですね」
ーーいいですね。”色々あった”というお話も気になるところ。そもそも高畠さんは、入社15年目でベンチャーに行くという選択をされているわけですが、どうしてこのタイミングで行くことにしたのでしょうか? 責任あるお仕事もされている中だと思うのですが。
「そうですね。ひとことで言うと『今の状態を続けても、この先うまくいかないんじゃないか』、そんな風に不安を感じていたからです。2011年以来、新規事業開発に携わる業務をしているのですが、正直『これでいいのだろうか…』と悶々としていました。だからベンチャーに行くことで、打破できるきっかけが掴めるんじゃないか、そんな風に考えていました」
ーーなぜ、今のままだとこの先うまくいかないと? どんなことに悶々としていたのでしょうか?
「私は、もともと研究職で東芝テックに入社して、20代の頃は研究施設で働いていたんですね。そのあとは、自社の複合機を活用した、新規事業開発を行うセクションに異動になって、技術的な部分で事業開発に携わってきました。新しいプロダクトやサービスを考えて、実際にプロトタイプを作って、展示会に出したり、海外に向けて提案するとか…。常に新しい事業を模索する、そんな環境にいました」
「でも正直…、『これが自分の成功体験』と言えるものがないんですよ。
様々なことにトライしてきましたし、事業化や製品化に向けて色々と動いてきました。当然、その中で貢献できたこともありますが、”これが自分の実績”と言えるものがない。そうやって気づいたら15年。
だからこのまま業務をやり続けても望む結果が出ないんじゃないかという不安があって、自分を大きく変えたいと思っていました。もしもいいアイデアが浮かんだとしても、自信が持てない気がしていて」
ーーなるほど。自信につながるような経験を求めていたわけですね。
「はい、それも大きな理由でした。あとは、社内の新規事業のプロセスやビジネススキームに関しても、もっと良くできるんじゃないかというのはありました。それに課題感もあって。たとえばお客さんとの距離が遠いこと。プロダクトの提供先が海外ということもあり、現地法人を介してお客さんに届くという流れ。
なので、『本当にお客さんのことをわかっているのだろうか?』という疑問を持っていました。ベンチャーだったらきっと、お客さんと近い距離で接することができるという期待もありました」
走った2ヶ月。理想的なスタートを切って…
ーー様々な課題感とフィットしたわけですね。そんな期待を抱いて、高畠さんが行かれたのは、株式会社ウェルモ。ウェルモさんは、社会課題をICTと先端技術の力で解決することをミッションにした、福祉業界のベンチャー企業。なぜここに決めたのでしょうか?
「まず、『事業開発をやりたい』というのは前提としてありました。でもなるべく業界もサービスも自社とは異なる領域に行きたかった。というのも、東芝テックでは主に、カタチあるプロダクトを作っているのですが、時代に合わせて変えていく必要があると思っていていたので、せっかくなので、新しいビジネススキームに触れたいと。そんな中で、ウェルモさんに興味を持ったのは、自社とは全く異なるプラットフォームビジネスであることや、社会課題に対して貢献できるということ。
それに、実は自分自身が、昨年、家族の介護について考える機会があって、介護業界のことを知りたいという気持ちもありました」
ーーそこからウェルモさんとの面談を経て、移籍が決定したわけですね。
「はい、面談してすぐに『ここで一緒に仕事をしてみたい!』って気持ちになりました。そのあと面談を予定していた他の企業もあったのですが、もうここで働きたいと即答してもいいくらいでした(笑)。それくらい良かった。だからその後、合格の連絡を頂いて、ホッとしました」
ーーそれは良かったですね。そして2019年の10月に移籍が始まったのですね。ウェルモさんでは、どのようなお仕事をされていたのですか?
「最初の2ヶ月は事業開発をしていました。移籍がはじまった時、ウェルモ社では、介護施設向けの配食サービスのシステムを検討している時でした。なので、その事業開発の担当者として、関わることになりました。
具体的には、介護事業所に訪問したり、配食のメニューを作るにあたり栄養士会の方と打ち合わせをしたり。自分で電話をしてアポイントを取って訪問してヒアリングをして…。それを受けて仮説を立てて、サービス設計を考えて…みたいな感じで、かなり動き回っていたと思います」
ウェルモ社での打ち合わせの様子
ーー最初の2ヶ月で、そこまで動けるんですね!
これまでの経験と近いものがあったのですか?
「いやいや、ないです(笑)。これまでは事業開発といっても技術寄りの開発で、企画を考えたり、営業したりは別の担当者がいました。なので、経験としては初めてでした。だから当然スムーズにはいかなくて、キャッチアップしながらなので大変でした。
介護の業界への理解も浅いので、勝手がわからず、動きづらさはありましたよ、最初は。でも抵抗はなかったですね。ベンチャーでは役割を限定せずに、広く事業開発を経験したかったので。それにお客さんと近い距離で接するという経験にもなりましたし。…ヒヤヒヤ感はありましたけど(汗)」
自分との葛藤。とことん落ち込んだ結果…
ーー大変だったとはいえ、出だしは好調だったみたいですね。その後もキャッチアップしながら、順調に進めていかれたのでしょうか?
「いやそれが…、最初の2ヶ月でプロジェクト自体が一旦ペンディングになってしまいまして。予定では、サービス設計ができたあと、要件定義をしてシステム開発を行う予定でした。もちろん、色々動いてみて、調査を行った結果、こういう結論が導けたので、これまでのことは決して無駄ではなかったんです。ですが、このあとシステム開発の部分までいけたら、自分としても大きな経験になるなぁというイメージをもともと持っていたり…。システムでは、いままでのノウハウも活かせてウェルモ社にも貢献できるんじゃないかって考えていたので残念ではありました。
だから、かなり気持ち的に落ちてしまいまして…。半年間の中で一番苦しかったですね」
ーーそうだったんですね。志半ばで終わってしまったことが悔しかったのですね。でも、それだけを込めて仕事ができていたわけですよね。
「それはそうかもしれません。当然、東芝テックでも、このようにプロジェクトが途中で終わることはありました。新規事業ですから、こういうことがあり得ることは頭ではわかっていました。
でもおっしゃるように、ようやくキャッチアップできて、自分の中ではこれからって思っていた時に、その先がなくなってしまって、どこに向かって行っていいかわからなくなってしまったんですね。『残り4ヶ月どう過ごそう、どういう学びを得られるのか?』、そこで思考が止まってしまっていました」
「ウェルモ社からは、残り4ヶ月で、社内の業務改善を担当してほしいという話はもらっていたんですが、その業務によって、期待していた事業開発をやりきった時のような成長が得られるのかというとそれが見えなくて。
今思うと、ある意味こういった経験は成長につながるチャンス。もっとポジティブに捉えればよかったのですが、この時は、周りが見えなくなっていて、5月病みたいな状態になってしまいました…(苦笑)」
最初の2ヶ月で業務に没頭し、奮闘した高畠さん。
一方、予想していた業務を継続できなくなったことで先が見えなくなってしまった様子。高畠さんは、このピンチをどう乗り越えていったのでしょうか? 後編でお届けします。
【株式会社ウェルモ 会社概要】
社会課題をICTと先端技術の力で解決することをミッションに掲げる、ケアテックカンパニー。ケアプラン作成支援AIの「ケアプランアシスタント」、介護の地域資源情報を集約するプラットフォーム「ミルモネット」、児童発達支援・放課後等デイサービス「UNICO(ユニコ)」の事業などを展開しています。
・ウェルモコーポレートサイト:https://welmo.co.jp/
【レンタル移籍とは?】
大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計38社97名のレンタル移籍が行なわれている(※2020年7月実績)。→詳しくはこちら
協力:東芝テック株式会社 / 株式会社ウェルモ
Interview & Writing:小林こず恵
Photo:ANN