ワーク・エンゲージメントはどうすれば高まるのか?〜AI時代に問い直す、若手育成と『働く目的』〜【人事のための対話会レポート #49】
こんにちは。ローンディールの野島です。
今回は、2026年7月に開催された「人事のための対話会」の様子をダイジェストでお届けします。
ローンディールでは月に1回、人事の皆さんの越境機会として「人事のための対話会」を開催しています。大企業・ベンチャーを問わず、人と組織の可能性を信じ活動をされている方々が集まり、特定のテーマに対して他社事例を聞いたり、それぞれの課題を共有しながら意見交換する――そんな場です。
今月のテーマは、
「ワーク・エンゲージメントはどうすれば高まるのか?〜AI時代に問い直す、若手育成と『働く目的』〜」です。
ゲストには、実践女子大学 人間社会学部 准教授の初見康行(はつみ・やすゆき)さんをお迎えし、「若手社員が働く意味を見いだすために、人事として何ができるのか」を一緒に考える時間となりました。
目次
「働く目的」の数が、エンゲージメントを左右する
初見さんは、株式会社リクルートHRマーケティングで「リクナビ」等の法人営業や人事部での採用を担当された後、研究者に転身。人的資源管理・キャリア教育を専門とされています。
若手社員のエンゲージメントはどうすれば高まるのか?という問いに対して、最初に提示されたのがこの結論でした。
若手社員の「働く目的」に、企業が介入していく
なぜ、このような結論に至ったのでしょうか。
社会人1年目(入社10ヶ月目)の若手社員に「働く目的」として当てはまるものを以下の選択肢から全て選んでもらう調査を実施。
- 生きがいを見つける
- 社会や人の役に立つ
- 自分の才能・能力を発揮する
- お金を得る
- 家族の生活
この「働く目的」の“数”と、仕事への熱意・活力・没頭を表す「ワーク・エンゲージメント」の関係を調べたところ、働く目的の数が増えるほどエンゲージメントも上昇する傾向が、統計的な有意差とともに確認されたそうです。

働く目的の数とワーク・エンゲージメントの関係(投影資料より)
20代~50代の大卒正社員を対象にした調査でも、性別・年代を問わず同様の傾向が確認されたとのこと。特に「1~2個」から「3個以上」に増えるタイミングで、エンゲージメントに大きな差(ジャンプ)が見られる点が印象的でした。
「お金を得る」だけでは、足りない
調査では、「お金を得ることだけ」を目的としている人のワーク・エンゲージメントが最も低いという結果でした。
一方で、「お金を得る」を選んでいても、
- 社会や人の役に立つ
- 能力を発揮する
- 家族の生活
など、複数の目的を持っている人ほどエンゲージメントは高まる傾向が見られたそうです。
初見さんは、
「お金を得ることは誰にとっても大切な土台。ただ、それだけではワークエンゲージメントを高めることは難しい」
と説明され、参加者の皆さんも大きくうなずいていました。
働く目的を「重層化」する――イメージは様々な具材があるハンバーガー
では、どうやって働く目的を増やすのか?
初見さんは、この状態を「ハンバーガー」に例えて、若手社員の働く目的を“トッピングのように”重ねていく「重層化」というアプローチを提案されました。
「お金を得る」という”バンズ”の上に、「能力を発揮する」「社会の役に立つ」「家族のため」など、その人らしい目的という”具材”を積み重ねていくことで、働く意味がより豊かになっていく。
チャットでは、この例え話に
- 「照り焼きを挟むか、フィッシュを挟むか」
- 「レタスとトマトも大事」
- 「働く目的が色々あることに気付かせることが必要かも」
- 「何のためにお金を得たいのか?を深ぼりしても重層化される気がします」
といったコメントが飛び交い、和やかな空気で議論が深まりました。

ワーク・エンゲージメントが高い人のハンバーガー(投影資料より)
誰が、いつ、どうやって「働く目的の重層化」するといいのか?
では、若手社員に対してどのように関わればよいのでしょうか。
初見さんは、
答えを与えるティーチングではなく、対話を通じて本人の気づきを促すコーチングが重要
だと話されました。
例えば、
- 「働く上で大切にしたいことは?」
- 「どんな状態になれば達成できたと言えそう?」
そんな問いを重ねながら、本人自身が「働く目的」を言葉にし、意味づけしていく。
そのプロセスこそが、仕事や会社へのエンゲージメントにつながるのではないか、というお話でした。
また、その手段として、
- 若手リーダーによるメンタリング
- 1on1
- 評価面談
といった既存の仕組みを活用することに加え、AIエージェントとの対話という可能性にも言及されました。
スキルだけでなく、「挑戦したい」と思える土台を育てる
最後に話題となったのは、人材育成における「マインド」への投資です。
- 従業員の心の状態は「無形資産」であり、有形資産と同じように、意図的・計画的に投資していくべき対象
- 近年重視されるリスキリング(スキル面の育成)も重要だが、それだけでは「飲みたくない水を飲ませる」ことになりかねない
- 自分から学びたくなるよう、マインド面に働きかけていくことが欠かせない
人事ができることは「答えを教える」ことではない。
経済産業省の「人生100年時代に求められるスキル」を引用しながら、
専門スキルはアプリ、キャリア意識や挑戦する姿勢はOS
という例えも紹介されました。
OSが更新されなければ、どれだけ優れたアプリも十分に機能しない。
人材育成というとリスキリングなど「スキル面」に目が向きがちですが、その前提となる「挑戦したい」気持ちにも目を向けることの大切さを改めて考える時間となりました。

「人生100年時代」に求められるスキル(出典:経済産業省HPより)
対話・リフレクションから生まれた声
対話では、皆さんから多くの気づきや実践知をご共有いただきました。ここでは、その中で出てきた声の一部をご紹介します。
- 働く目的の数が「2個→3個」に増えるだけでエンゲージメントが大きく変わる点に驚いた
- ”社員にいい体験をしてもらう”ということに力を入れていたが、”自分自身に矢印を向ける”という機会は創れていなかったので、いい観点をもらえた
- 働く目的を育むだけでなく、『この会社だからこそ実現できる』という意味づけまでできてこそ、エンゲージメントにつながるのではないか
- 「意味づける力」はエンゲージメントに限らず重要なスキル。最後は自分にしかできないからこそ、それができるようどう歩み寄れるかを考えたい
- 「働く目的」の重層化は、若手だけでなくミドル・シニアにも大切・有効な視点ではないか
- AIに相談しやすい人もいる一方、人の可能性を信じ、背中を押せるのは人だからこそできる役割ではないか

おわりに
「働く目的」の“数”と“内容”がワーク・エンゲージメントに与える影響というデータに基づく知見から、若手社員への向き合い方まで、多くの示唆をいただいた回となりました。
参加者の皆さんからも、それぞれの現場のリアルな声や気づきが共有され、対話が広がった時間となりました。
私自身、「働く目的は、一人ひとりの中にあるものを引き出し、重ねていくもの」という言葉がとても印象に残りました。
制度や施策を整えることはもちろん大切ですが、日々の対話を通じて、その人らしい働く目的を見つけ、一緒に育んでいくことも、人事の大切な役割の一つなのだと改めて感じています。
次回は8月18日(火)11:00〜12:30を予定しています。
「挑戦」「キャリア自律」「人材育成」をキーワードに、NTTドコモ 総務人事部 キャリアデザイン室 室長の室住篤子さんをゲストにお迎えし、社員が「挑戦したい」と思える環境をどうつくるのか、人事はどのような仕掛けや機会を設計できるのか、をNTTドコモでの実践も交えながら、参加者の皆さんと一緒に考えます。
ご興味をお持ちいただいた方は、対話会フォームより、お気軽にお問い合わせください。
ローンディールでは、ポッドキャスト「人事のための越境タイム」も配信中です。
対話会に関連するテーマも取り上げていますので、ぜひ通勤時間などにお聴きください。
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