「自分の動きひとつで事業が変わる」〜 3人の子どもを育てながら挑む1年間の移籍。ベンチャー経営の中枢を駆け抜ける2ヶ月半のいま 〜
2025年度から、三菱HCキャピタル株式会社(以下、MHC)で導入している「レンタル移籍」。1年間という期限つきでベンチャー企業に移籍し、新天地で新たな経験を積む制度です。社員が社外での実践経験を通じて視野や経験の幅を広げるとともに、自らのキャリアについて考え、自身の成長や次の挑戦につなげる機会として位置付けています。2026年4月から「レンタル移籍」に挑戦している移籍者に、移籍先のベンチャーの方と一緒にご登場いただき、現在の業務や経験、その中で得た気づきなどについて伺いました。
今回の記事でご登場いただくのは、新卒で入社してからエリア営業部、市場開発部(現・ベンダーソリューション営業部)、人事部を渡り歩いてきた倉西優(くらにし・ゆう)さん。直近の人事部では主に育児両立支援や女性活躍、エンゲージメント関連の業務を担当し、在籍して約8年が経つ頃、3人のお子さんを育てながら、新たな挑戦を求めてベンチャー企業への「レンタル移籍」に飛び込みました。
現在移籍しているのは、「HiO ICE CREAM」をはじめとする、サステナブルな社会の実現に向け、新しい価値づくりをめざすクラフトスイーツの企画製造・販売を行う株式会社HiOLI。自らも育児に奮闘しながらベンチャーへ飛び込んだ倉西さんが移籍した経緯やここまで積んできた経験、感じている変化などを、倉西さんとHiOLI代表取締役社長・平岡晃(ひらおか・あきら)さんに伺います。
(※本記事は2026年6月に取材したものです)
目次
社歴や経験を重ねてきたからこそ、外に飛び出す思い切りが必要だった
ーーまずは、倉西さんが「レンタル移籍」の参加を決めた経緯から教えてください。
倉西:私自身の人事での在籍期間が長くなるほど、自ら手を挙げない限り異動はないんだろうなと感じたんです。ひとつの部署に長くいると、新しい視点や思考を取り入れるのも難しくなるので、外に出るなら今なのかなと感じた部分があります。
異動などの選択肢もありましたが、「レンタル移籍」を選んだのは、単純に面白そうだと感じたからです。社外に出てみるのもいい経験になるかなと思って、軽い気持ちで立候補しました。

ーー移籍先の候補はたくさんあったと思いますが、どのように選んでいきましたか。
倉西:移籍前に*「WILL発掘プログラム」というものを受けて、自分の中のビジョン・ミッション・バリューを可視化したんです。私のビジョンは“余白をつくる=誰もが無理をせず、価値を高めていく”というもので、その考えに合いそうな企業を探していきました。
*「WILL発掘プログラム」とは:移籍前に実施する事前研修プログラム。これまでの人生やキャリアを振り返り、自分のWILLを言語化します。
その中で、HiOLIの“笑顔が続く社会環境を未来の子供たちに残す”というビジョンに感銘を受けたんです。スイーツで余白をつくって笑顔を増やすという捉え方もできると考え、ここで学びたいと思いました。
ーー移籍前の面談が初対面だったと思いますが、そのときの印象は覚えていますか。
平岡:倉西さんはお子さんが3人いると伺って、子育て中のママが不慣れな環境に飛び込んでくることに興味が湧きました。僕も子どもが3人いるので、近い立場として、移籍する理由やベンチャーでやりたいことをたくさん聞きたいと感じましたね。
倉西:面接という感じではなかったですよね。子どもの話から始まって、私がこれまで何をしてきたか、HiOLIで何をしたいかというところを中心に聞いていただきました。
平岡:倉西さんの話を聞いて、尊敬しましたよ。長く勤めて慣れ親しんだ大企業にいれば、生活に困ることはないじゃないですか。それでもチャレンジしたいという意欲を持って飛び出してきて、単純にすごいなって。
倉西:そう言っていただけて光栄です。面談の後に拝見したスイーツを製造しているアトリエも印象的でした。メンバーの方が換気扇の掃除をされている様子を見て、衛生管理がしっかりされていて、クオリティの高い商品を販売されているんだなという信頼感も芽生えましたね。
環境を変えたことで見直すことができた「働き方」と「子育てとの両立」
ーーHiOLIでは、どのような働き方をされていますか。
倉西:基本は週5日出社しています。店舗のスタッフは毎日店頭に立っているので、本部の社員もリモートではなく出社しようという意向ですよね。
平岡:もちろんご家族が病気のときなどはリモートもOKにしていますが、「リモートしたいからする」っていうのはなしにしています。
移籍して2ヶ月半経ちましたが、当初の数週間は倉西さんもベンチャーのマインドとか物事の進め方に戸惑うところがあったと思います。特に、僕が「スピード感を大事に」ってよく言うので(笑)。倉西さんのよさは、何事も拒否せずにやってみるというスタンスなところです。

(左は移籍者の倉西さん、右が株式会社HiOLI 代表取締役社長の平岡さん)
ーー倉西さんは、実際に戸惑った部分がありましたか。
倉西:週次のミーティングがあるんですが、「そこを待つな。ジャッジする必要があるなら、待たないでどんどん進めて」と言われたのは驚きました。MHCだと、予定されている会議体を目がけて予定している合意形成ができるように徹底的にリサーチしたり準備したりしていくことが多いので。
平岡:何事も期限を設定すると思うんですけど、期限前に終わるのであれば終わらせたほうがスムーズですよね。
ーーちなみに、現在はどのような業務を担当されているのでしょう。
倉西:店舗のアルバイトや契約社員の採用を担当しています。収益構造を変えるため、もともと外部委託でスタッフの派遣を依頼していたところから、自社スタッフに切り替えているところです。
平岡:倉西さんには当社の社員どころか、代表として会社説明や面接をしてもらっています。アルバイト希望者は並行して複数社受けていて、スピード感が重視されるので、そういう意味でも進められるところは進めてほしいと委ねています。小さな失敗も含めて経験しないと、移籍した意味がないかなと思うので。
ーー採用業務となると、人事部での経験が活きそうですね。
倉西:企業のことを人に伝える経験は活きていますね。HiOLIでも面接マニュアルを参考にしつつ、会社の想いや、現状・取組をありのままにお伝えするよう心掛けています。
ーー実際に働き始めて、面談の話でも出てきた子育てとの両立はどのように実践されていますか。
倉西:実は、子育てしながらチャレンジする姿を見せることも、目的のひとつでした。家事や育児を理由にキャリアが停滞してしまうのはもったいないと感じていたので、まずは私自身が挑戦してみようかなって。
移籍に伴って通勤時間が増えたので、保育園のお迎えが遅くなったりもしているのですが、夫との連携や延長保育を利用したりしながら工夫しています。実践しながら実験している感覚ですが、移籍を機に夫婦間の分担や時間の使い方を見直すきっかけになったと感じています。
「数字意識」と「スピード感」双方の強みを併せ持った存在に
ーーHiOLIにとっても今回が初めての「レンタル移籍」ですが、移籍者の受け入れを決めたのはなぜですか。
平岡:ベンチャーは人手が足りないので、大企業の優秀な方に一緒に業務を担っていただけること自体が、我々にとってはメリットしかありません。また、私が前職で移籍者を受け入れた経験があり、その際にいい波及効果を感じたので、そこを期待していた部分が大きいですね。
ーー実際に倉西さんの存在が、HiOLIにも波及効果をもたらしましたか。
平岡:もちろんあります。当社は数字意識が弱い部分があるので、僕も日頃から「数字意識を持ってもらいたい」と伝えているんですが、倉西さんはまさに数字の見える化に貢献してくれていると感じています。 当社の役員も「倉西さんが来てから、数字の部分も含めて変わった」と話していますし、数字意識を当たり前の文化にしていく一歩目を踏み出してくれたように感じますね。まだ2ヶ月半ですが、いい循環に入ってきている気がします。

倉西:人事部ではこれからデータで語れるようにという段階でしたが、若い頃に営業部にいたので、その頃の経験から数字の感覚が身についているのかもしれません。
HiOLIだと数字に関するフォーマットがないので、本部の社員だけでなく店舗のスタッフにも伝わる言葉や発信の仕方を考え、フォーマットをつくるところから始めていきたいと考えています。
ーー逆に、倉西さんがHiOLIに移籍したことで得たものや学んだことはありますか。
倉西:採用というコーポレートサイドの業務を担当しているので、経営との距離が近く、「経営戦略としてここが大事だから、これをやる」というところがMHCにいるときよりもわかりやすいです。自分の動きひとつで事業が変わることも実感しています。
ーー大企業にいたときと比べて、経営との距離の感じ方に違いはありますか。
倉西:違いは大きいですね。経営に近いところにいると、「これは本当にやらないとまずいな」「これをやると変わるな」と強く感じるんですよね。ベンチャーに来たからこその変化だと思います。
平岡:倉西さんは謙虚ですが、実際に経営に影響を与えてくれていますよ。当初、「移籍中に利益ベースで300万円の売上を上げる」という目標を設定したんですが、現状で既に200万円弱に到達しています。このままいけば200%達成をめざせる勢いです。
倉西さんが努力してくださった成果だと思います。我々はとても助かっていますし、この経験を今後のキャリアに活かしてもらえたらうれしいですね。
倉西:ありがとうございます。残りの期間では、もっと数字に関するスキルを高めたいですね。というのも、コーポレートのマネージャーの吉村淳さんが経理に強く、収支の管理表などを一瞬でつくってくれるんですよ。そのスキルを学んで、持ち帰りたいと思っています。
先ほど話したスピード感の部分も、もっと突き詰められる部分があると思うので、ここからさらに経験を積んで、自分のものにしていきたいですね。
期限が決まっている「レンタル移籍」は実質リスクゼロでチャレンジできる機会

ーー「レンタル移籍」では*メンターが付き、定期的な1on1なども行いますが、参考になったアドバイスはありましたか。
*メンターとは:移籍期間中に移籍者の成長・活動を支援する伴走者のこと。
倉西:週報を書くんですが、「体験を綴るだけではなく、抽象化して、後から見返したときにも学びになるように言語化するといい」と教えていただき、納得しました。内省しながら週報を書くのは大変ですが、メンターの方に見てもらいながら取り組んでいます。
平岡:「レンタル移籍」においては、経験を通じて自ら学び取ることが大切ですよね。ほとんどのベンチャーは研修プログラムのようなものがないはずなので、自分で何かをつかみ取ろうというマインドの人じゃないと難しいと思います。
ただ、個人的には、ベンチャーに3ヶ月いると大企業の1年分くらいの経験ができると感じているので、意欲さえあればメリットは大きいと思います。1年間で3~4年分の経験を持ち帰れる機会は、今後のキャリアに大きく影響するのではないでしょうか。
倉西:1年間の期限があって戻る場所もあるので、移籍者にとっても実質リスクゼロで新たな環境にチャレンジできる機会なんですよね。今のMHCであれば、どんな結果であれ「ナイスチャレンジ」って言ってくれると思うので、あまり考えすぎずに挑戦できるのではないかと思います。
平岡:移籍が始まるときに倉西さんが「お世話になります」って言ったとき、一緒に来ていたMHCの上司の方が「そのスタンスじゃダメだ」って言っていたのが印象に残っています。「お客さんではなく、ベンチャーの社員になるつもりで1年間過ごすように」というメッセージを感じ、僕も背筋が伸びました。倉西さんのように挑戦してくれる人が増えると、面白いことが起こりそうですよね。
Fin
協力:三菱HCキャピタル株式会社 / 株式会社HiOLI
インタビュー・文:有竹 亮介
