部下の当事者意識を育てるには? 「ゴールは握る、プロセスは任せる」というマネジメント
「部下にもっと当事者意識を持ってほしい」「指示待ちではなく、自分で考えて動いてほしい」——多くのマネージャーが抱えるこの悩みに、明確な答えを持っている人は多くありません。
今回イベントでお話を伺ったのは、キヤノン株式会社・衣松徹哉(きぬまつ・てつや)さん。衣松さんは、ベンチャー経営者の経営課題に大企業社員が挑む他流試合プログラム「outsight※」にまずご自身が参加。その後、新規事業のテーマを担う部下も「outsight」へ送り出しました。
自ら参加して気づいた「提案の型」の重要性。一方で、部下に求めたのは、自分と同じ型を身につけることではありませんでした。部下が自分で考え、判断し、動けるようになるために、上司は何を握り、何を手放せばいいのか。衣松さんの実践から、そのヒントを探ります。
進行は「outsight」事業責任者の楠原ジュンヘン、司会はローンディールの野島朋子が務めました。
※ 本レポート記事は、2026年8月に開催されたセミナー「自分で考え動く部下を育てるには」の内容を要約したものです。

(左上:ローンディール野島、右上:ローンディール楠原、中央下:衣松さん)
※outsightとは、さまざまな領域のベンチャー企業が実際に抱える経営課題を題材に、大企業の社員が解決策を考え、経営者本人からフィードバックを受ける、週1回・90分のオンライン他流試合プログラムです。

1週目に経営者から事業紹介と課題提示を受け、参加者はそれぞれの解決策を考えて提案。2週目には、経営者が評価したアイデアを中心に直接フィードバックをもらいます。
「ベンチャー経営者の話を聞いて終わり」ではなく、自分の頭で考え、提案し、フィードバックを受ける。「インプット→アウトプット→フィードバック」を繰り返すことが特徴です。

目次
「自分には、提案の型がない」——まずは上司自身が気づいたこと
楠原: そもそも、なぜoutsightに参加しようと思われたんですか。
衣松: 技術の会社なので、シーズ志向で顧客に提案しても、全く見向きもされない時期がありました。これではいけない、どうしたら顧客に刺さる提案ができるのだろうと考え、社外の情報を取り込み、思考法を学ぼうと参加しました。

Profile 衣松 徹哉 (きぬまつ てつや)さん
キヤノン株式会社 次世代材料事業開発室 室長。キヤノンに入社後、プリンター用色材の研究開発に従事。新規事業推進本部の発足に伴い異動し、材料技術を起点とした新規事業の創出や事業化を主導。現在はコア技術を活かした新規事業開発に加え、地方創生プロジェクトにも参画し、持続可能な地域社会のあり方を検討中。
楠原: outsightに参加してみて、いかがでしたか。
衣松: 一番感じたのは、自分の中に提案の型を持っていないことです。しかも、自分がどう思考しているか、そのプロセスを説明できない、言語化できないことに途中で気づきました。
楠原: 具体的には、どのような考え方をしていたんでしょうか。
衣松: 毎回、目の前にある情報だけで考えていました。そうすると、抜け落ちている情報が多いままの状態で提案をしてしまう。「考え方のプロセスが統一できていない」と、回を重ねるうちに感じました。
今は、事象を要因分解して、どのファクターを変えれば新しい提案に切り替わるかを考えるようになりました。
また、あらゆることを客観的に分析できるようになり、自分の考えに対しても自己分析するようになったのが、実務での一番の変化だと思います。
「学ぶ」から「実践する」へ——部下を社外へ送り出した理由
楠原: その後、衣松さんの部下の方もoutsightに参加されたんですよね。どんな狙いだったんですか。
衣松: その部下は、自分のテーマを持って事業提案をしていく時期でした。課題解決の方法はよく学んでいましたが、実際の課題に対して自分なりの解決策を考えて提案し、その課題の当事者から直接フィードバックをもらうところまで実践する機会は、なかなかありません。そうした生のフィードバックを受けることで、提案の解像度や精度を上げてほしいと思いました。
楠原: 送り出した部下の方に、何か変化はありましたか。
衣松: outsightを終了してから1か月なので、大きな変化はまだ見えていない部分もあります。ただ、テーマを進めるうえで押さえるべきこと、確認すべきこと、情報を取る勘所には磨きがかかったと思います。
提案するときに「こういう情報が足りないよね」という会話が減りました。「どう判断したの?」と聞いたときも、「こういう理由で判断しました」と筋道を立てて答えられるようになってきました。
ゴールは握る、プロセスは任せる
楠原:衣松さんご自身は、outsightを通じて「提案の型」を意識するようになったというお話でした。部下の方も、同じような思考プロセスになっていたのでしょうか。
衣松: これが面白くて、思考プロセスは全然違いました。私のように要因分解するのではなく、顧客の解像度を高めて、そこから自分の土俵に連れ込んでいくような提案の仕方でした。
楠原: 自分と違うやり方をされていますが、どう感じましたか。
衣松: 違う考え方は、本当にウェルカムです。ゴールさえずれていなければ、途中のプロセスは違っていい。思考プロセスが違うからこそ、自分が気づけないことに気づいたり、別のルートを通ることで新しい情報を得たりできると思います。
チームでやる以上、いろいろなアプローチができた方が、最終的な提案の幅も広がります。みんな同じ考え方をしたら、せっかくたくさんの人がいるのにもったいない。
目の前の課題を自分事にしてもらうには、自分の思考プロセスでやってもらった方が実感しやすいと思うので、プロセスにはあまりこだわっていません。
上司と部下のどちらにも幅がないと、「そうじゃない」で話が終わってしまいます。キャッチボールするうえで、幅を持つことは大事だと思います。

任せる勇気は、リスクの見極めから
楠原: 部下に任せることに、怖さを感じるマネージャーも多いと思います。アドバイスはありますか。
衣松:任せるのは、私もそれなりに怖いです。だから、うまくいかなかったときにどれだけリスクがあるかを最初に把握します。そして、 スタート地点とゴール地点を明確に決めておきます。そうしないと違う方向へ行き、軌道修正が難しくなる。そこを決めたら、あとは「お好きなように」という感じです。
既存事業はルールが決まっていますが、枠組みの中なら自由にできると思います。枠組みさえ握られていれば、既存事業でも進められます。
失敗しても大したことが起きないなら、どんどん任せればいい。そういうところで鍛えてもらえれば、だんだん大きな仕事も任せられるようになる。リスクの低いところから任せるのが、入り口としてはいいのではないでしょうか。
また、部下にどう考えてもらうかと同時に、上司の自分がどう考えているかをちゃんと言語化できていないといけないと思っています。
いただいたご質問の一部を紹介します
イベントでは、参加者からさまざまな質問が寄せられました。その一部をご紹介します。
Q. 主体性を発揮しない方がいいと学習してしまった部下には、どう向き合えばよいでしょうか。
衣松:なぜそういう心境になったのか、組織的な要因も含めて分析する必要があると感じました。
楠原:主体性を発揮しない方が正しく評価される組織文化の中では、そう振る舞う方が合理的になってしまいますよね。実際、outsightを組織風土の変革を目的に活用いただいている企業もあります。異業種の方と接することで「この業界の人はこんな考え方をするんだ」という素朴な気づきを得て、それを社内に持ち帰る。そうした気づきの積み重ねが、組織風土を柔らかくするきっかけになっているという声を多くいただいています。
Q. ゴールの解像度が高すぎると、部下の自由度が下がってしまう気もします。ちょうどいい塩梅はありますか。
衣松:何が失敗でどこからが成功と言えるか、その境界線を見極めることが大事です。最低限のラインさえ引ければ、それ以上、解像度は上げなくていい。新規事業に不慣れな部下ほど、最初は解像度を高めに設定し、自走できるようになったら徐々に粗くしています。
Q. 忙しい中で、部下を外に出す工夫はありますか。
衣松:これは上司側が工夫しないといけないところだと思います。部下だけでは、外とのつながりを自分で設定するのは難しい。だからこそ、まず上司自身がどれだけ外とつながっているかが重要です。組織にとって良い方向へ行くなら、他の業務とのバランスを見ても、外とのつながりはつくった方がいいと思ってやっています。
部下に促すときは、今の自分がどうやっているか、目指す自分はどこかを話しました。目指す姿と今の自分には差分がある。その差分を埋める手段の一つとして、こういう機会を受けてみたら変わるかもしれない、という伝え方をしましたね。
楠原:目指す姿から一緒に考え、現状との差分を埋める手段として提示し、最後に背中を押す。単なる「外を見てこい」という指示とは違う、当事者意識を促すコミュニケーションをされていたのですね。

楠原:outsightでは、無料の見学を受け付けています。毎週木曜20時から90分、実際のセッションをライブでご覧いただけます。「自分も参加してみたい」「部下の育成に悩んでいる」という方は、ぜひその場の空気を体験してみてください。
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