「手を挙げてみる。たったそれだけで世界は変わる」 オリンパス 澤田亮太さん -前編-
オリンパスの研究室で生物系顕微鏡のシステム構築に従事していた澤田亮太(さわだ・りょうた)さん。医療の進歩に貢献するというやりがいの大きな仕事のはずが、だんだんと言葉にはできないモヤモヤが……。現状を打破するために澤田さんが選んだのが、ベンチャー企業・フューチャースタンダードへのレンタル移籍という決断でした。
未知の世界に飛び込んだ先で、新しい自分を見つけられたのでしょうか? 10カ月に及んだレンタル移籍について話を伺いました。
目次
医療の発展に貢献する開発の現場から
─まずはオリンパスでの業務内容からお伺いさせてください。
2006年に入社して以来、一貫して生物系顕微鏡カテゴリのシステム構築に従事してきました。物質にレーザーをあて、がん細胞や染色体など特定部分を光らせて観察・検査するためのシステムです。たとえば細胞には核や膜などいろいろな要素があり、特定の溶液につけた後の反応や、時間経過による変化なども把握して、顧客が望む対象を的確に観察できるようカスタマイズする必要があるんです。私はソフトウェアの下回りを担当していまして、観察対象に応じて顕微鏡のレーザーの強さやモーターの制御、光の収差などを調整しています。
─医療などの研究開発に直結している分野なのですね。
そうですね。顕微鏡が便利になれば、がん細胞に対する投薬効果の変化をより詳細に観察できますし、使い勝手がよくなればメカが苦手な研究者でも積極的に活用できるようになり、医療の発展に貢献できます。
─入社される前からそうした分野に興味があったのですか?
そこまで強く「人の役に立つ仕事をしたい!」と願ってはいなかったのですが、子供の頃から漠然と研究関連の職に就きたいと思っていました。白衣を着ている人の近くにいるのは、なにか面白そうだなと感じていたんです。
「やらざるを得ない環境」に身を置きたかった
─今回、リアルタイム映像自動解析プラットフォームや映像装置の開発を行っているフューチャースタンダードへ、10ヶ月間行かれたわけですが、きっかけは何だったんでしょうか。
ちょうどプロジェクトの合間で、「医療やカメラなど他の部署で修行してきてもいいよ」と上司に言われたんです。そこでいろいろ検討した末、ベンチャー企業にレンタル移籍できる制度があることを知りました。この会社から転職する考えはありませんが、どの選択肢よりも経験を積めるのではないかと思ったんです。ここ最近はチャレンジングな行動ができていないという自覚もあり、行動するなら今しかないと。ベンチャーという響きに後ろ盾のない怖さを感じつつも、何か挑戦的な姿勢もイメージしたんです。
─怖さはあっても、ベンチャーに飛び込んでみようと決意されたんですね。
私はあまりコミュニケーションが得意でも自発的なタイプでもありません。他部署に修行に行っても知り合いが多い環境では周囲に甘え、大した経験を得られないのではないかと危惧するほうが強かったんです。やらざるを得ない状況に自分を置いたほうがいいんじゃないかって。
─ご自身のスキルや環境に不満を感じる部分もあったのでしょうか。
具体的な課題を抱えていたわけではありませんが、細々とした不満が山積みでした。常に目の前の仕事に一生懸命取り組んできたつもりですが、どこか惰性的になってしまっている自分もいて。自分より上の管理職に就いた同期や大きなプロジェクトのリーダーになった後輩を見て、自分もがんばろうと奮起すると同時に、どこか引け目を感じてしまうところもあって。そうした状況から一歩でも前に進みたかったんです。
─そうした想いを抱いていた澤田さんにとって、今回のレンタル移籍はちょうどいいチャンスだったのですね。
担当メンターがつくというのも、大きかったです。しっかりフォローアップしてくれるから、実りある時間になると考えました。また、フューチャースタンダードは人数も少ないから強制的にチャレンジが発生するのではないかと推測し、決めました。
─おっしゃられていた「やらざるを得ない状況」ですね。
はい。途中、「もう少しゆるそうなところにしようかな?」と日和りそうにもなったのですが(笑)、せっかくやるならと覚悟を決めました。フューチャースタンダードの担当者の人柄がとてもよく、一緒に働いてみたいという気になったのも大きいですね。
不得手だったコミュニケーションスキルを磨く
─2019年5月のゴールデンウィーク明けから移籍されたわけですが、どのようなことから始められたのですか?
まずは「カメラに慣れましょう」ということで、カメラの設定やサーバーの構築に携わりました。その後に担当したのが、法人向けに販売している「SCORER(スコアラー)」というリアルタイム映像自動解析プラットフォームのパッケージの組み立てです。「明日納品しないといけないから、今日中にパッキングや動作チェックを済ませて……」ということもあって。オリンパスでは3カ月くらいの期間を設けてプロジェクトを回すことが多いので、「今日やって」というようなビジネススピードにはとても驚きました。
─あまりにもテンポが違うと。
それに技術や仕様に関するドキュメントを見て理解する、といった従来のやり方ではなく、「彼が知っているから直接聞いてみて」というようなことも。発見と驚きばかりでした。
─その後は、どのような業務を?
フューチャースタンダードの製品をある程度理解した後は、コンサルの仕事にも同伴させてもらいたいと手を挙げました。ずっとお客様とお話しする機会のない開発畑を歩んできましたから、せっかくならお客様のところにも行ってみたいと思ったんです。すぐに「じゃあ、やってみる?」となりました。手を挙げれば即担当になれる環境でしたから、本当にまっとうできるのか?という不安感もつきまとうのですが、それでも「やります!」と。
─飛び込んでみたんですね。初めての体験、いかがでしたか?
最初はほとんど話せなかったですね。同伴として担当の横に座り、記録を取りながら笑顔でうなずいていただけで(笑)。ただ、しばらくすると様々な説明会場で「SCORER」を解説する役を担うことになりました。ブースに一日中立っていて、訪れた方に「SCORERはこういうサービスなんです」と10分くらいお話して。
─コミュニケーションは得意ではないという話でしたが、けっこうなチャレンジだったのでは?
2~3人の前でしゃべるだけでも、ものすごく緊張しました。でも、こうしたことを6~7回もやると慣れてきて、自分でもけっこうできるのだなと思えるようになったんです。こうした役が自分にも回ってくるのは、少人数のベンチャーだからこそでしょう。人前でしゃべる度胸がつき、いい経験になりました。
「SCORER」のブースにて
行動は起こすべきだと経験から学んだ
─積極的に行動を起こされていったのですね。
もっとやってもいいと思い始め、「じゃあやります」という行動を増やしていきました。たとえば、社長の鳥海さんから「澤田さん、今度のデモの担当やってみますか?」とざっくりと振られ、急きょ新規顧客に対して「SCORER」でできることをチームと一緒にまとめ、すぐにお客様の前で実際にデモをして、といったようなことを。けっこう無茶な進行の中、メンバー総出でパッケージづくりに励んで納期に間に合わせたこともありました。
─そのあたりもベンチャーならではの勢いといいますか。
「マジ? つらい!」と思ったこともあったんですけど(笑)、だんだんと「やってやるぜ!」という気持ちになってきて。時間に追われている最中は「できる、できる!」って自分に言い続けていました。
─適応していったんですね(笑)。
そうですね。最後には、ずいぶんと成長できたのではないかと思っています。昔の自分なら、顧客からの相談も「そうですね」とそのまま受け入れただけで終わっていたでしょう。「言われことをやればいい」「別の行動を起こして失敗したら嫌だ」という気持ちがあったんです。でも今なら、こちらからも話を重ねて課題を聞き出し、「こういうのがありますよ」「こういうふうにしてはどうですか?」といろいろと提案してみたいという気持ちになっています。そうしたアクションを自分でとってもいいんだとわかったというか。当たり前の話に聞こえるかもしれませんが、自分はフューチャースタンダードでの経験を通じて、こうした感覚をリアルに得ることができたんです。
思い切って飛び込んだ先で、「やります!」と手を挙げ始めた澤田さん。積極的な行動により、これまで味わったことのない体験を重ねていきます。澤田さんの挑戦はどこまで続くのか。続きは後半で。
協力:オリンパス株式会社 / 株式会社フューチャースタンダード
撮影:畑中ヨシカズ (※ブースでの撮影除く)
Interview&Writing:横山博之
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【レンタル移籍とは?】
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