コラム・インタビュー

「いい意味で、自信をなくした」。アイシンで越境施策を担う人事が、自ら越境して気づいたこと

社員を社外へ送り出し、新たな経験や気づきを得てもらう「越境学習」。では、その施策をつくる人事担当者自身が越境したら、何が見えるのでしょうか。

株式会社アイシンで越境プログラムを運営する関雄輔さんは、自らローンディールの「side project」に参加し、3ヶ月間、ベンチャー企業のプロジェクトに飛び込みました。

もともと関さんが抱えていたのは、「越境した社員が持ち帰った熱を、どうすれば社内で生かせるのか」という課題でした。ところが実際に越境してみると、自分では当たり前だと思っていたことが強みだと気づいたり、他社の越境者の行動力に圧倒されたりと、想像していなかった経験が待っていたといいます。

2026年8月に開催したオンラインセミナー「越境施策を設計する人事が自ら越境してみたら―アイシンの実践者が語るside projectのリアル―」から、関さんの3ヶ月の越境体験と、そこから見えてきたことを伺います。

「火がついて帰ってくる」。でも、その熱が社内で冷めてしまう

――関さんがアイシンで越境施策に携わるようになった経緯を教えてください。

関雄輔さん(以下、関)
:もともと私はエンジニアとしてキャリアをスタートして、アイシンに転職しました。その後、新規事業を経て、新規事業人材を育てるために人事へ異動し、現在は越境プログラムの運営を担当しています。

アイシンでは、なすべきことを自発的に考えて行動できる「プロ人材」を育てていこうとしています。これまでの正解が通用しなくなるなか、新たな価値をつくるには、自社の中だけでは得られない気づきも必要だと考え、さまざまな越境プログラムを用意しています。

――社員を送り出すなかで、どんな課題が見えてきましたか?

関:
越境に行くと、必ずと言っていいほど、みんな火がついて帰ってくるんです。「そんな世界があったんだ」と。

でも、それを自分の業務に持ち帰ろうとすると、熱が冷めてしまうことがある。外で経験したことを「こんなことをやっていました。自社は遅れていますよ」とそのまま持ち帰ると、反発が起こることもあります。

大事なのは、「そこで何がわかったのか」「自分たちにどう生かせるのか」を言語化すること。越境体験の「持ち帰り方」が大事なんじゃないかと思うようになりました。

「自分では当たり前」が、社外に出ると強みになった

――そんな問題意識を持って、関さん自身が「side project」に参加されたんですね。

関:はい。参加前に、自分が何をしたいのかというWILLと、自分に何ができるのかというCANを言語化し、その後、ベンチャー企業とのマッチングに進みました。

転職以来の面接という感じで、結構ドキドキしました(笑)。でも面白かったのが、企業からフィードバックをもらえたことです。客観的な視点で自分を捉えてもらうこと自体が、かなり内省になりました。

――印象に残ったフィードバックはありますか?

関:
意外だったのは、もうずいぶん前のエンジニア経験を、複数の企業から評価していただいたことです。

もう一つ、面談中に「『無理』という言葉が嫌いなんです」と話したんです。「できないなら、できない理由が絶対にある。それを可視化するのが好きなんです」と。そうしたら、それが「耳に残った」とフィードバックしていただいて。

自分では当たり前だと思っていたんですけど、「あ、これは自分の強みなんだ」と気づきました。
自分の能力が、思いもしなかったところで求められたり、自分ではそれほど重要視していなかったものが、外では重宝されたりする。そういう意味で、越境には「自分のアセットの再確認」という面もあるんだと思います。

――活動が始まる前から、自分自身を捉え直していたんですね。

関:
そうですね。「ここで終わってもいいんじゃないか」と思うぐらい(笑)。マッチングだけでも満足感がありました。
振り返ると、もっとたくさんの企業と面談しておけばよかったですね。それぞれの企業から「あなたのこういうところをお借りしたい」と言ってもらえる。もっと違う角度から自分を見てもらえたんじゃないかと思います。

「自分は越境できる側」と思っていた。でも、もっとすごい人がいた

――最終的には、株式会社mento(以下、mento)を越境先に選ばれました。

関:本当は、本業の人事とは全然違う「“ど”アウェイ」に行きたいと思っていました。

ただ、mentoは勢いのあるベンチャー企業で、そのスピード感や、大企業との働き方の違いを見てみたいと思ったんです。3ヶ月間、AIコーチングのプロダクトについてユーザーインタビューを行い、どんな機能があるとよいかをフィードバックしました。

――実際に越境してみて、どうでしたか?

関:実は、参加前はちょっと自信があったんですよ(笑)。

転職経験もあるし、エンジニアから新規事業、人事と部署も変わってきたので、自分は結構「越境できる側(動ける側)」だと思っていたんです。

でも、行ってみたら、もっとすごい人がいました。

side projectでは月1回、同時期に参加している他社のメンバーとの振返り会があります。そこで、最初の1ヶ月から爆速で動いている人がいて。「え、もうそんなことやっているんですか?」って、すごく焦りました。

その方は最初に「僕はガンガン動いていきますけど、どこまでやっていいですか?」と聞いたらしいんです。それを聞いて、「あ、それ聞けばよかったな」と(笑)。

自分は少し遠慮していたんですよね。「待ちの姿勢じゃダメなんだ」と気づきました。

通常業務をしていると忘れかけていた、「自分で仕事を取りにいく」という感覚を久しぶりに思い出しました。いい意味で、自信をなくした経験でしたね。

「そのまま真似するのは難しい」。だから、自社でできることを考える

――mentoの中に入ったからこそ見えたものもありましたか?

関:もう、すべてが刺激的でした。特に感じたのはスピードですね。
会議は話すことが終わったら、時間が余っていても終わる。数分で決められることなら、その場で短いミーティングをして決めてしまう。SlackやNotionで情報もオープンになっていて、みんなが同じ方向を見て、「同じ船に乗っている」という感じがありました。

プロダクトづくりでも、エンジニアの方が「この機能を入れたら売上につながるのか」と考えている。お客様にとっての価値や、事業としてどうなのかという視点を当たり前のように持っているのも印象的でした。

――そうすると、「アイシンでもやろう」と思いますよね。

関:
そうなんですけど、そこがまさに「持ち帰り方」なんですよね。

「他社ではこうやっています。自社でもやりましょう」と言っても、ハレーションが起きてしまう。会社の規模も違いますし、そのまま真似するのは難しいです。

でも、たとえば部署の30人、40人という単位なら、情報をオープンにして、みんなが同じものを見られる状態をつくれるかもしれない。自分たちに合う形にして、少しずつやっていく必要があると思います。

越境の「火」を消さないために、送り出す側ができること

――越境で得たものを社内で生かすには、送り出す側の関わりも重要なのでしょうか?

関:そう思います。

本人が「行きたいから行く」というだけだと、帰ってきたときに、送り出した側が期待していなかったものを持ち帰ることもあります。それで「そんなことをやってほしいわけじゃない」となったら、せっかくついた火が消えてしまうかもしれません。

一方で、上から「行ってこい」と言うだけでは、本人のモチベーションが上がらない。

本人が「行きたい」と思うことと、送り出す側が「こんな期待を持って、こんな経験を積んできてほしい」と考えること。その両方が必要なんじゃないかと思っています。

そうしておけば、戻ってきたときにも経験を受け止めやすくなる。もちろん、自分たちもまだそこまでできているわけではありません。これから考えていかなければいけないところです。

「そもそも仕事って何だろう」。越境して改めて考えたこと

――side projectを経験して、仕事への向き合い方にも変化はありましたか?

関:改めて意識するようになったのは、「お客様は何を求めているのか」という視点です。

越境すると、外を知って視野が広がり、視座も上がっていく。その先には、「そもそも仕事って何だろう」という問いもあると思うんです。

お客様に価値を提供して、その対価としてお金をいただく。それが仕事の本質ですよね。

でも会社員として働いていると、毎日会社に行って、給料日に給料をいただくという感覚になって、「自分たちがお金を稼いでいる」という意識を忘れがちになる。だからこそ、事業目線や経営目線を持つことが大事だと改めて感じました。

越境で得た『事業目線』を、社内で生かす

side projectで改めて意識した「お客様は何を求めているのか」という視点は、その後の関さんの仕事にもつながっています。

現在、関さんは人事と新規事業部が連携して進める、社員から新規事業を公募するプログラムの運営に携わっています。事業創出を通じて、自ら考え、行動する「プロ人材」を育てていく取り組みです。

――side projectで得たものは、今の取り組みにも生かされていますか?

関:入っていますね。「お客様は何を求めているのか」というお客様視点は、まさにそうです。

越境先で得たものを、そのまま自社に持ち帰るのではなく、自社に合う形に置き換え、次の仕事につなげていく。

「越境した社員が持ち帰った熱を、どうすれば社内で生かせるのか」。越境施策を運営する立場として抱えていた問いに、関さん自身も越境を経験し、その学びを実践することで向き合い続けています。

外に出て、自分の強みを知る。自分よりも大胆に動く越境者に出会い、仕事への向き合い方を見直す。そして、そこで得た視点を、自分の仕事へと持ち帰っていく。

関さんの3ヶ月の経験は、越境することだけでなく、「越境したあと」にどう学びを生かしていくか、その大切さも教えてくれました。


アーカイブ動画を期間限定で公開中

本イベントのアーカイブ動画は、2026年10月31日まで期間限定で公開しています。

記事では紹介しきれなかった関さんのside projectでの体験や、越境施策を運営する立場からのリアルな気づきもお話しいただいています。ぜひ動画でもご覧ください。

【アーカイブ動画はこちら】
※2026年10月31日まで公開

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